1328人が本棚に入れています
本棚に追加
「……悪い、感情に訴えたいわけじゃない。ただ信じてほしいんだ、千秋。もし無理ならそれでもいい、これから証明するチャンスがほしい」
英司は間を置いて我に返ると、いつもの落ち着きを取り戻しながらそう言った。
千秋は気づく。英司は基本的に落ち着いていて、元々感情を大っぴろげにするタイプではない。感情も表情だって人並みに変化するけど、その幅は広くない人だ。
俺は、知っていたのに。
やはり最初から嘘をついているようには見えなかったし、その上ここまで言っている。
それに英司の言い分を聞いた今、それを本気で照合しようとすれば、嘘の場合、必ずボロが出る。それを頭の良い英司がわからないわけがない。
英司の言っていることが本当だというのは明白だった。
だとしたら、この話、英司が悪いことなんて一つもないのだ。
むしろ、英司を最後まで信用せず、本当のことを聞かなかった千秋が悪い。
英司は、説明する暇もなく、意味のわからないまま千秋に逃げられたわけだ。
勘違いという可能性もあれど、勘違いでない可能性も変わらずあるということ。あの時、ほぼ黒だと確信してしまっていた千秋は、本当のことを本人の口から聞くことが怖かったのだ。
だから、逃げた。
「柳瀬さん、俺、信じます」
「……本当か?俺は、お前には心から信じてほしい。証拠なら探す」
「いや…本当のこと言ってるなってのはわかるんで。だから、謝らなきゃいけないのは俺の方なんです。……俺、勝手に勘違いして……その上、柳瀬さんのことを信じずに、本当のことも聞かず逃げました。だから、本当にごめんなさい」
「いや、あんな場面見せられたら、俺だって勘違いすると思う。だから、俺がごめん」
「だから、それを俺は確認もせずに……」
「それは、俺が勘違いさせたせいで……」
「だとしても俺が……」
「……って、これ、繰り返すのか」
お互い謝罪の無限ループを察知したので、英司が少し冗談ぽく言うと、千秋も乗っかって「このへんで終わりにします」と肩をすくめた。
まずは、自分の悪かったところを反省して、信じることから始めたい。
そう、きっと、もっと単純なことだったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!