3. つながりを求めた

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「……悪い、感情に訴えたいわけじゃない。ただ信じてほしいんだ、千秋。もし無理ならそれでもいい、これから証明するチャンスがほしい」  英司は間を置いて我に返ると、いつもの落ち着きを取り戻しながらそう言った。  千秋は気づく。英司は基本的に落ち着いていて、元々感情を大っぴろげにするタイプではない。感情も表情だって人並みに変化するけど、その幅は広くない人だ。  俺は、知っていたのに。  やはり最初から嘘をついているようには見えなかったし、その上ここまで言っている。  それに英司の言い分を聞いた今、それを本気で照合しようとすれば、嘘の場合、必ずボロが出る。それを頭の良い英司がわからないわけがない。  英司の言っていることが本当だというのは明白だった。  だとしたら、この話、英司が悪いことなんて一つもないのだ。  むしろ、英司を最後まで信用せず、本当のことを聞かなかった千秋が悪い。  英司は、説明する暇もなく、意味のわからないまま千秋に逃げられたわけだ。  勘違いという可能性もあれど、勘違いでない可能性も変わらずあるということ。あの時、ほぼ黒だと確信してしまっていた千秋は、本当のことを本人の口から聞くことが怖かったのだ。  だから、逃げた。 「柳瀬さん、俺、信じます」 「……本当か?俺は、お前には心から信じてほしい。証拠なら探す」 「いや…本当のこと言ってるなってのはわかるんで。だから、謝らなきゃいけないのは俺の方なんです。……俺、勝手に勘違いして……その上、柳瀬さんのことを信じずに、本当のことも聞かず逃げました。だから、本当にごめんなさい」 「いや、あんな場面見せられたら、俺だって勘違いすると思う。だから、俺がごめん」 「だから、それを俺は確認もせずに……」 「それは、俺が勘違いさせたせいで……」 「だとしても俺が……」 「……って、これ、繰り返すのか」  お互い謝罪の無限ループを察知したので、英司が少し冗談ぽく言うと、千秋も乗っかって「このへんで終わりにします」と肩をすくめた。  まずは、自分の悪かったところを反省して、信じることから始めたい。  そう、きっと、もっと単純なことだったんだ。
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