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英司に正面から抱きしめられて口づけられると、やわやわと離してくっつけてを繰り返し、しばらく堪能された。
「ん……」
やがて舌が口内に割って入ってきてピクリとすると、後頭部を抑えられて逃げられなくなる。
口内をゆっくりゆっくり溶かすように、舌同士をじっくり絡み合わせていると、硬直していた身体もだんだんと力が抜けていく。
ああ、悔しいけど、やっぱり柳瀬さんとのキスが一番好きだ……。
ぷぁ、と唇が離れてしまうと、千秋は荒れた息遣いを整える。
「千秋、こっち」
「はい……わっ」
そう言われて前から抱き抱えられると、後ろのベッドへ一緒に乗り上げた。
仰向けに倒され、上から見おろす余裕のない英司と目が合う。
「柳瀬さん、あの、するんですか?」
「……そう以外の何に見える」
ちらりと英司の、キスだけで膨らんだ箇所に目をやったが、余裕がないのは本当らしい。
ていうか、柳瀬さんが俺で興奮、してる……いやでも、待て、とりあえず落ち着け。
「そ、そうだ柳瀬さん今日なにか用事とかっ」
「今日は1日フリーだ」
いつも忙しいくせに!
でも、やっぱりどうしても今日はダメだ。絶対ダメだ。
なぜなら答えは簡単。俺が、そっちでしたことないからである。
そんなのがバレたら悔しすぎる恥ずかしすぎるで無理だし、もし操を立てていたのかとでも思われたりしたら屈辱的すぎて消えたくなるに決まってる。
この五年で何人かと付き合ったとはいえ全て女性で、恋人がいない時期にも男を漁りに行くなんてことはなく。英司に至っては、中学時代キス止まりだったのだ。
何より、自分がどうなってしまうのかわからないのが嫌なのだ。
もし英司の前で、目も当てられないひどい状態になってしまったら……考えるだけでぞっとする。そうなってしまったら、一体どうするっていうんだ。
だから、やるなら、全ての準備と練習を徹底的に、完璧にこなしてからだ。
千秋は心に根付いた体育会系精神から結論を出した。
「でも、ほら、まだ明るいし……」
とりあえず思いついたもっともらしい理由。いや、ベタすぎたかもしれない。
「……たしかに。悪い、つい焦った。しかもお前病み上がりなのに」
今にも勢いよく襲いかかってきそうな面をしといて、そのまま大事そうに抱きしめられたので、不覚にも胸がきゅーんとなってしまう。
しかし意外にもあっさり引き下がったな、と思いながら自分の上から退こうと動き出す英司の姿を眺めた。
離れていく英司の体に、本当にここで中断してよかったか、と今さら真反対のことを思い始めてしまう。
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