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足を下ろしてベッドに腰掛けると、未だベッドの真ん中に座り込む千秋を振り返って「具合どう?大丈夫か」と聞いてきた。
「大丈夫、です」
……英司は、優しい。
元々軽い熱だったしもう元気なのに、心配して優しく聞いてくれる英司に心がぎゅうと苦しくなった。
こんなタイミングで止めたから怒ってないだろうか。なかなかやらせてくれない面倒くさいやつだと思われてないだろうか。それともまだ千秋が拒絶感を持っていると思っているのではないか。
途端にそんな不安が襲ってくる。止めたのは、俺なのに。
でも今さら方向転換なんて、俺には難易度の高いこと……
おい、でもいいのか俺、こんなところでまだ意地張って。柳瀬さんを意味もなく困らせて。
もしかしたら、今度こそ呆れられるかもしれない、嫌われるかもしれない。
それでいいのか?
……い、いや、ここまできて、そんなことにさせるか!
早々に脳内会議を終了すると、千秋はとっさに座り込んでいる英司の腕を掴んだ。英司がこちらを振り向いて「どうした?」と声をかけてくる。
一度は中断されたからか、余計羞恥心が湧いてきて、やっぱりやめようかという気になってしまう。
でも、今日くらいは意地を捨てたい。捨てなきゃいけない。
「柳瀬さん……俺、後ろ、初めてなんです」
「え?」
声は震えるし思わずぎゅうと掴む手に力が入って、目を丸くした英司が様子を伺ってくる。
「後ろって……」
「いっ、言わせるんですか!?」
「……いや、今のは聞き流してくれ。それで?」
ばっと顔を上げると、すでにいっぱいいっぱいなのが伝わったのか、英司はそこは追及しなかった。
「だから……っ」
ぎゅうっと思い切り目をつぶる。
「や、柳瀬さんが、それでもいいなら……やっぱり、したいっ……」
だんだん語尾が小さくなっていき、最後なんか蚊の鳴くような声だったし、言ってる最中に泣きそうになった。
ああ…恥ずかしすぎてみっともないし目を開けたくない。
でも、言い切ったぞ。元々こんなことを言うようなタイプではないし、これだけでも俺にとっちゃすごいことなんだからな!
意を決して、当の英司の方をおそるおそる見上げる。
その顔を見て、ぞくりとした。
英司が、さっき以上に男のこわい顔をしていて、笑ってはいるけど苦しそうで、瞳の奥はギラギラとこちらを捉えている。
どうしよう、こんな柳瀬さん初めて見た。
ふと英司が、ふ──……と長く息をつく。
そして、たったそれだけ、こちらを見て低い声で言う。
「……本当に勘弁しろよ、お前」
千秋の喉が、ゴクリ、息を飲む音が鳴った。
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