⒈ 隣人を回避せよ

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「え……と、柳瀬さん?」  昨日会わないように徹底すると決めたばかりなのに、なんで俺インターホンのモニター確認しなかったんだ。というか、なんでうちに来てるんだ!  とはいえやつは自分に気づいてないわけだし、とりあえずただの隣人として対応すればいいと試みたが、 「お前……高梨千秋、だよな」 「えっ」  千秋は漫画みたいにビクッ!と肩を強張らせた。  その口から自分のフルネームが出てきたことに、心底驚く。 「な、な……」 「やっぱり、そうだったのか。高梨、久しぶりだな……」  少し微笑んだ彼が、玄関に入ってこようとする。なんで今さら?とかいう一番の疑問はあったけど、先に千秋の脳内警報が鳴り響いた。 「あ、おいっ」 「ひ、人違いです」 「俺が見間違えるわけない」  昨日は気づかなかっただろ!と心の中で突っ込みながら、ぎぎぎとドアをむりやり閉めようとしたけど、やつの力が強すぎるのか全然閉まってくれない。それどころか、また開いていっている気がする。 「近所迷惑なんで!帰ってください!」 「なんでしゃもじ持ってんだ。というかお前、先週会ったのに俺に気づかなかったのか?」  後半の英司の言葉に、はあ?それお前が言うか?と思考に意識を逸らしてしまうと、その一瞬で、ついにドアが全開になってしまった。全力の抵抗も虚しく、その隙に玄関に入ってくる英司。 「ちょっと、勝手に入んないでくださいよ!」 「なんだ?すげえいい匂いする」 「え?あっ!」  しまった、スープの鍋の火つけっぱなしだった。
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