4. それは単純で特別な

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 千秋は夕食の準備をしながら、ぼーっと考えていた。  たしかに、恵理子は恋人ではないと思う。それは、千秋とあんなことがあったのにも関わらず、そんなわかりやすいことをするはずがないからだ。やるなら普通、もっと上手くやるだろう。  でもやっぱり、本人に聞かない限り、このモヤモヤは解決されなさそうだ。  しかし、もし恋人だと言うのなら、今度こそ千秋は完全なる人間不信として再起不能になってしまう。  そして、この前あんな風に体を求めといて!なんて面倒臭いセフレみたいなことを思ってしまうことだろう。  つまるところ、今の自分たちの関係は一体なんだ?  再会したときにもう一度付き合おうと言われたが、あれ以来「好きだ」と何度も告げられはしても、交際を申し込まれてはいない。  背中がすーっとなり、拓也の俺はセフレじゃなくて恋人が欲しいんだ、という言葉が脳内再生される。  ま、まさか……これ、セ、セフ………  と、結論に辿り着きそうなところで、玄関のチャイムが鳴って、驚きに体をびくつかせた。 「い、今出ます!」  すぐ玄関を開けると、英司が紙袋をぶら下げて立っていた。  お邪魔しますと言って中に入ってくると、英司がくんくんと鼻を鳴らす。 「なに、飯つくってる?」 「あ……はい、急に生姜焼き食べたくなって」  今さら「何しにきたんです?」とは言わないが、作っているところを横で見られるのは落ち着かない。腹、減っているのだろうか。 「あの……よかったら、食べていきますか」 「いいのか?」 「柳瀬さんがいいなら、ですけど」 「すげえ食べたい。高梨の手料理」  その期待のこもった眼差しで見られると、うっとなってしまう。  英司をぐいぐいと部屋の方に促すと、柳瀬さんも食べるならもうちょっと品目増やすか、と密かに腕まくりをした。
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