1328人が本棚に入れています
本棚に追加
千秋は夕食の準備をしながら、ぼーっと考えていた。
たしかに、恵理子は恋人ではないと思う。それは、千秋とあんなことがあったのにも関わらず、そんなわかりやすいことをするはずがないからだ。やるなら普通、もっと上手くやるだろう。
でもやっぱり、本人に聞かない限り、このモヤモヤは解決されなさそうだ。
しかし、もし恋人だと言うのなら、今度こそ千秋は完全なる人間不信として再起不能になってしまう。
そして、この前あんな風に体を求めといて!なんて面倒臭いセフレみたいなことを思ってしまうことだろう。
つまるところ、今の自分たちの関係は一体なんだ?
再会したときにもう一度付き合おうと言われたが、あれ以来「好きだ」と何度も告げられはしても、交際を申し込まれてはいない。
背中がすーっとなり、拓也の俺はセフレじゃなくて恋人が欲しいんだ、という言葉が脳内再生される。
ま、まさか……これ、セ、セフ………
と、結論に辿り着きそうなところで、玄関のチャイムが鳴って、驚きに体をびくつかせた。
「い、今出ます!」
すぐ玄関を開けると、英司が紙袋をぶら下げて立っていた。
お邪魔しますと言って中に入ってくると、英司がくんくんと鼻を鳴らす。
「なに、飯つくってる?」
「あ……はい、急に生姜焼き食べたくなって」
今さら「何しにきたんです?」とは言わないが、作っているところを横で見られるのは落ち着かない。腹、減っているのだろうか。
「あの……よかったら、食べていきますか」
「いいのか?」
「柳瀬さんがいいなら、ですけど」
「すげえ食べたい。高梨の手料理」
その期待のこもった眼差しで見られると、うっとなってしまう。
英司をぐいぐいと部屋の方に促すと、柳瀬さんも食べるならもうちょっと品目増やすか、と密かに腕まくりをした。
最初のコメントを投稿しよう!