4. それは単純で特別な

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 食べ終わって片付けも済むと、先に部屋に戻っていた英司に呼ばれた。 「なんですか?」 「これ、美味しそうだったから買ってきた。食べようぜ」  持ってきた紙袋から取り出したのはせんべいだった。  甘いものが得意ではないらしい英司は、お菓子を持ってきては千秋に与える。が、ひたすら与えられて一人で食べるというのは、嬉しいと同時に少し申し訳ないと思っていたのだ。 「一緒に食べますよね」 「ん?ああ、一緒に食べようと思って持ってきた」 「俺、お茶入れてきます」  キッチンですぐさまお茶を入れて持ってきて、さっきと同じように向かい側に座ろうとしたら、「こっち」と手招きされる。  隣に座れってことだよな……。なんだか妙に照れくさい雰囲気だが、ここで行かなかったら恥ずかしがってると思われる。  大人しく隣に座ると、横からぎゅううと抱きしめられた。 「わ、なんですかっ、いきなり!」  頭も抱えられて力一杯に抱きしめられるので、少し苦しい。ぐいぐいと離れようとしようにも、全然逃げられない。 「んー手招きしたら大人しくこっちに来ちゃう千秋ちゃんかわいいなって」 「なっ…てか!千秋ちゃんって、やめてくださいよ」 「いいだろ、別に」  ……大人しく従ったら従ったで、結局何か言われてしまうんじゃないか。  満足したのか英司がようやく離れると、千秋はほっと息をついた。  ……いきなりこういうことしないでほしい。死ぬかと思った。いや、許可とってきても困るけど。  英司はせんべいを食べ始めると、これうまいな、と機嫌良さげに笑った。 「たしかにおいしいですね、これ」 「今度また買ってこよ」  英司がそう言ったところで、会話が止まる。  ……あれ、今割といい感じに会話できてたと思うんだけど。  また変な態度をとってしまったのかと思って、横の英司をちらりと盗み見ると、こちらを見ず「千秋」と呼ばれ慌てて前に向き直った。 「なんですか」 「恵理子はあいつ違うからな、ただの同じ学科のやつ」 「えっ……また急になんですか、俺そんなこと」  そこに触れるとは思わなかった。弁解するように言われ、とっさに気にしてないふりをする。 「いや、さっき泣きそうになってたからさ」  ……嘘だろ。  さっきというのは、家の前で恵理子と英司が話していたときのことだろう。  そんな顔していたか?いや、絶対普通の表情だったって。 「や、でもわかってますし。別に大丈夫です」 「……ちょっと待て、千秋。やっぱりちゃんと説明させて」  がしっと両肩を掴まれる。  その勢いに千秋は圧倒されて、コクリと頷くしかできなかった。
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