4. それは単純で特別な

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 英司はまず、千秋と同じ大学の医学科に在籍していることを話した。 「だと思ってました」 「俺の母親が病院の院長なんだよ」  飲んでいたお茶を吹き出すかと思った。 「院長って…あの、すごい偉い人ですよね」 「まあ、そうだな」  そんなすごい人がお母さんだったとは知らなかった。 「うちが医者一族なのもあって貴重な本とか資料があるから、恵理子には色々と面倒かける代わりに、そういうの貸してる。あいつ、ありえないほど勉強好きなんだ」 「す、すごいですね……。でも面倒かけるって」 「いや、俺食べるの忘れるからな」 「はあ!?それしょっちゅうなんですか?」 「いや、たまにだけ。学校で倒れたら恵理子に叩き起こしてもらう」  信じられない。それこそいつか本当に体調を崩してしまう。というかなんで今の今までピンピンできてるんだ。ていうか、医者目指すのにそんな感じでいいのか!?  ……でも、まあ恵理子との関係はよくわかった。別に最初から問いただしてやろうだなんて思っていなかったけど、モヤモヤはだいぶ薄れた。  それは、実際の関係がどうだとかよりも、英司が丁寧に説明してくれたからだ。 「で、もう変な風に誤解してないよな?なんか思うことがあったら言ってくれよ」 「……はい」  どうやら英司は、千秋が中学の卒業式のことを誤解していたこともあり、だいぶ気にしたようだ。  英司は英司なりに千秋を気にかけてくれている。  それは、誤解が解ける前からだったけど、改めて思うとこの人はずっと俺を大事にしてくれていた。  そういえば、恵理子が感づいてるっぽいことを言っていたのは、とりあえず言う必要はないだろう。そう思ったのは、なんとなく、恵理子は変わっているけど悪い人だとは思えなかったからだ。
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