4. それは単純で特別な

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「……卒業式のやつは圧倒的にそうにしか見えなかっただけで、普段はそんなすぐ誤解しないですよ」  そう言うと、ん、と英司は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐ「そうか」と笑った。たぶん、千秋がフォローするとは思わなかったのだろう。  ていうか、そもそも自分たちがどういう関係に今あるのかわからないのに、偉そうに口出すことなんてできない。  だからと言って、いきなり「俺たちってどういう関係なんですか?」なんてこと口が裂けても言えない。  ……だからまあ、ずっと好きだと言ってくる相手に少し疑わしいところがあれば、ちょっとくらい気にするってだけだ。それくらいはその他大勢だって同じだと思う。きっとそうだ。 「医学部ってそんなに忙しいんですね」 「ん?まあ、部活とかバイトも一応できるけどな」 「え、そうなんですか。でも、柳瀬さんは…」  その様子からして、その両方やっていないんだろう。なのに食べるのを忘れるくらい、そして、ほぼ毎日夜遅くに帰宅するほど忙しい。 「俺は、早く一人前になりたいだけ」  と、英司が眩しそうに微笑んだので、それについて聞きたい気持ちもあったが、直後に顔に影が落ちてきて、瞬く間にキスをされた。 「……びっくりしてる」 「……しますよ、そりゃ」  小さな声で言うと、ぐんと抱き上げられ、ベッドに二人転がり込んだ。 「えっ、するんですか?」 「あの日から全然触れてない」  実は自分たちはこれからどういう方向に行くのか、なんとかして聞いてみようとは思っていたが、どうやらこれでは無理そうだ。 「いやっ、お風呂、入ってないんで」 「じゃあ、一緒に入ろう」  とんでもない提案をしてくる英司に千秋はしばらく抵抗したが、結局流されるままに、これで二度目になるそれになだれ込むのだった。
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