4. それは単純で特別な

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 言ってしまった後、千秋は数秒遅れて顔をかあっと赤くした。  しまった。もう少し段階を踏んで言うつもりだったのに。こんなド直球に、俺……う、嘘だろ、俺!しかもこんな堂々と、めちゃくちゃ自信ありますみたいな。ていうか、正式って、正式って……。  思えば思うほど恥ずかしい点が出てきて、今すぐ病室を逃げ出したい心境に駆られた。  すると、それを読まれたかのように、先ほど繋がれた片手に力がこもる。 「……俺が付き合おうって言わなかったからだよな」 「う……」  英司が納得するように呟いた。  ああ、次なんて言われるんだろう。さっきまで色々考えてたけど、ここで断られたらもう何もかもおしまいじゃないか。  それはつまり、柳瀬さんにフラれる可能性……。……うわ、だめだ、改めて俺はなんてことを口走ったんだ。  全く自慢ではないけど、こういうことを言ったのは人生で初めてなのだ。  顔を見れずにいると、英司が少し体を起こしたのがわかった。相変わらず手は繋がれたままだ。  よし、覚悟を決めよう。 「千秋……」 「……はい」 「俺、お前に色々悩ませてたのに、悪い……今めちゃくちゃ喜んでる」 「はい?」  意味がわからなくてぱっと英司の方を見てみると、顔をそらした彼はたしかに頬を少し染めて、口角が上がるのを抑えられていないようだった。空いている方の手で口元を覆っていてもわかる。  な、な…なんだその反応。  つられるように千秋の体が、ぼんと熱くなる。
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