4. それは単純で特別な

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 英司はこほんとわざとらしい咳をすると、落ち着きを取り戻すように千秋に向き直る。 「俺が今日言わなかったのは、千秋をどうでもいいって思ってるわけじゃなくて、ただ心配をかけたくなかっただけなんだけど、それが蚊帳の外みたいで千秋は嫌だったんだな」 「か、蚊帳の外って」  そんな簡潔にまとめられると、俺が仲間外れにされて拗ねてるみたいじゃないか。いや、雰囲気はそれで間違っていないのかもしれないけど。 「でも、俺はそうしたつもりはないからな」 「……はい、変なこと言ってすいません」  強調するように言う英司が、繋いだ手を引いて千秋をベッドの端に座らせた。  後ろには英司のかけている布団があって、横に向くと目が合う。  抱き着けるほど近い距離で、千秋は数日ぶりの英司のにおいにどきりとした。  英司はそのまま千秋の頭を引き寄せて撫で始めると、 「あーあ、お前の警戒が解けたら俺から付き合ってくれって頼もうとしてたのに」  と、さらりと言った。 「え……えっ」 「まさか千秋が言うなんて、聞き間違いかと思った」  もう千秋はぱくぱくと声が出なくなって、ようやく赤面も収まってきたのに、再び首まで赤くなった。  なにそれ……じゃ、じゃあ俺、早まって勢いで言わなくてよかったんじゃ……。と思うのもすでに遅く、千秋は言い返す言葉もなく黙りこくった。 「千秋、恥ずかしがってんの?」 「ちが……っ、もう、放っておいてください」  色々ともう混乱中なのだ。言い始めたのは俺だけど、これ以上何も突っ込まないでほしい。  英司はニヤニヤと嬉しそうにしながら、千秋の赤い頬をつついている。 「はあー……かわいいな本当」  ぐるぐるとこの状況を回避する方法考えている千秋の頬をつついたり、むにむにと摘んだり、やり放題だ。もう完全に面白がられている。  くそ、回避は無理だ、ならもう、ここは強行突破だ。
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