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「柳瀬さんを正式な恋人にしてあげます」
わざと上から目線に言ってやると、英司が横からぎゅうと抱き締めてきた。
「千秋」
「ん」
横を向くと、ちゅ、とキスをされた。
どうしよう、なんか現実味はないけど、なんか、どうしよう。俺、柳瀬さんと本当に……
「ああ……まじで嬉しい」
千秋を抱きしめながら、柔らかい表情で言う英司になんだかたまらなくなる。
「や、柳瀬さん……っ」
前に回わされた片腕を気持ち程度にぎゅうと握っていたが、俺はおかしくなってしまったらしい、くいと肩をつかんで、英司の顔に自分の顔を近づけ──……
その瞬間、コンコンと扉をノックする音がして、反射でベッドから跳ね降りた。
「ひゃ、ひゃいっ」
「恵理子だけど」
ノックしたのは恵理子で、すぐには入って来ず外から声をかけてきてくれた。
「ちっ、いいところだったのに」
「柳瀬さんっ!」
舌打ちするな!
恵理子を入れようと、パタパタ慌てて扉の方に行く。
やばい、俺、今なにしようとした?こんな衝動的に、やっぱり今日おかしいかも……。落ち着け俺!
カラっとドアを開けると、腕組みした恵理子が立っていた。
「顔赤いけど」
「へっ」
「まあいいや、とりあえず泊まりは無理だし送るよ」
恵理子は千秋を迎えに来たらしかった。二人きりにしてくれたのも、気を使ってくれたんだろう。
「すみません何から何まで……」
「その様子だとなんとかできたっぽいね」
「なんとかできるかは、これから次第なんですけど」
その会話は聞こえていない英司がベッドから「恵理子」と呼ぶ。彼女は扉のところから動かずに目を向けた。
「ありがとうな、連れてきてくれて」
「……まあ、これで懲りてよね。とりあえずこの子は家に返すよ」
「ああ、頼む」
やっぱり二人は信頼しあった仲間という感じで、それが少しいいなと思えた。
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