⒈ 隣人を回避せよ

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 すごい勢いでご飯を掻き込む目の前の男を、じとっと見る。 「うまい。そういえばお前、料理できたんだったな」 「……簡単なものですけど」  飯二人分は余裕であったからいいけど、と自分も食事をする手を進める。  まさか腹が減りすぎて倒れたなんて、驚かせやがって。二日水しか飲んでないなんていったい何してたんだよ、そりゃ倒れてもおかしくない。 「ごちそうさま。ありがとな、高梨」  千秋も食べ終えると、英司は二人分の食器を持って立ち上がり「シンクでいいか」と尋ねてきた。 「あ、はい。ありがとうございます」  英司はキッチンの方へ消えていく。  ……いや、どう考えてもこの状況、おかしい。  嫌いな相手に手料理をご馳走した挙句仲良くテーブルを囲むなんてありえないだろ。倒れるなんてアクシデントがあったから仕方ないと思えるけど、自分の思いとは裏腹に接触時間が多すぎる。  でも食べ終わったことだし、このまま帰ってくれるだろう。  ところが、キッチンから戻ってきた英司は、当たり前のように千秋の向かい側に再び座った。 「なにしてんですか……」  ひくひくと顔を引き攣らせて英司の顔を見ると、やつはテーブルに肘をついてこちらを無表情に見る。 「なんでそんなツンツンしてんのか、教えてもらおうと思って」 「は、はあ?」  お前のせいだろ!と言いそうになるのを抑えて、英司を睨む。本人を目の前にトラウマ兼黒歴史を掘り返すなんてのは、ごめんだ。
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