4. それは単純で特別な

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「面倒臭いってわかってるんです、でもちゃんと食事を取らないと。でも、料理はしないし、そもそも食べるのを忘れるんでしょう。なら、俺が昼は弁当つくりますし、夜はいつもみたいに食べれる日は一緒に食べればいいんで。どうですか?」 「面倒くさいとかじゃなくて……いや、正直めちゃくちゃ嬉しくてやばい」 「へ……」 「でも、そこまで迷惑かけれないだろ。そもそもこれは俺が管理しなくちゃいけないことだし。しかも千秋は昼、学食だろ?」 「弁当にしてもいいと思ってたんで、そこは大丈夫ですけど。一人分も二人分もそこまで変わりません」 「そうだとしても……うーん、ありがたいけどな」  英司はどう断ろうか考えているようだ。千秋の気持ちも無下にはできないと。きっと、千秋にただ自分の飯の世話させることになると思っているのだろう。となれば、遠慮するのは当然だ。  でも、千秋はただ健康管理をしたいんじゃない。 「俺は負担とか思わないです、むしろ……。どうしてもだめですか?柳瀬さん」  英司を見上げて、最後の後押しをするように少し甘えた声が出てしまうと、腰に回された手にぐっと力が入った。 「……どうしたんだよ千秋、俺のこと殺す気?」 「なに言ってんですか。で、どうするんです」 「……本当にいいのか?俺は千秋の飯が毎日食えるわけだし、良いことしかないけど、千秋は大変になるだけだろ」 「ほぼついでですし、そこは大丈夫ですって。その代わり、メニューは俺が決めちゃいますけど」 「……本当、色々考えてくれてありがとうな」  そして、しばらく考えたあと、「じゃあ、頼んでもいいか」と英司が言った。すぐに千秋は、うんうんと頷く。  ……やった。受け入れてもらえた!  それから、食費がどうのこうの話したところで、そうだと英司が呟く。 「朝出る時間を変えることにした」 「いつも早いですよね」 「ああ、本当はそんなに早く出る必要はないんだよな。家でできることは家でやろうと思ってな」  今までは自主的に早めに出ていたということだ。  家は寝るか、物を取りに来るか千秋に会いに来るかなので、それ以外は研究室等にいるということだろう。  まずは、家で作業できる状態にするらしい。たしかに、一度だけ入った英司の家にはテーブルすらなく、ぎっしり本が詰まった本棚と無駄にでかいベッドがあるだけだった。  結局、英司が定めた朝出る時間は、千秋とほぼ同じになった。 「じゃあ、朝にお弁当持っていきます」  やる気満々な千秋を見て、英司は嬉しそうに微笑んだ。
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