4. それは単純で特別な

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 とりあえず、昨日から考えていた英司に毎日しっかりご飯を食べさせるプランは上手くいった。  まあ、実際しっかり実行されるかは観察が必要だが。  ……うん、やっぱり俺やってること、お母さんっぽくないか?  一応恋人になったはずだが、彼女がお母さん化してしまって、というのは確かにある話だ。……気をつけよう。  しばし眉間を寄せて考えていると、英司がぐりぐりと眉間の皺を押してきた。 「ちょ、なんですか」 「いや、千秋が思ったよりすごい俺のこと考えてくれてたのが嬉しいなって」 「……あっそうですか」 「つれねえ」  何が楽しいのか、英司は千秋の頭を撫でながらけたけた笑っている。  よく考えたら、こうして部屋でまったりするのも、何日ぶりだろう。  よいしょ、と床に投げ出された英司の膝の上に座らされると、向かい合う姿勢になる。  腰をぐいと両手で引き寄せられて、顔が目の前まできた。 「めちゃくちゃキスしたい」  こんな至近距離でそれを言う意味はなんだ。少し動いたらすぐにくっついてしまうというのに。うなじを抑えられている千秋は、これ以上後ろに引けない。 「いつも勝手にするじゃないですか」 「たしかに」  ふっと笑いをこぼして短くそう言うと、英司は千秋の唇に噛みついた。 「んっ……」  焦らされてるのかと思うほど、重ねるキスだけが繰り返される。ただ、何度も角度を変えて千秋の唇の感触を惜しみなく堪能しているようで、それがなんだか気持ちよかった。  やがて、舌が遠慮なく入り込んでくると、ぴくりと体が反応する。  毎回反応してしまうのが恥ずかしくて嫌なのだが、それに気づいた英司がうなじを指でスリ、と撫でた。 「ひっ……」  擽ったいというかゾクゾクするというか、首元を触れられると声が出てしまう。  不意打ちだとコントロールできないし正直やめてほしいのに、英司はこれが楽しいらしい。  千秋の反応に気を良くした英司は、エスカレートしてそのまま大胆に撫で始めた。 「やっ、首やめてくださいっ」 「なんで?気持ちいいんでしょ?」 「気持ちいいんじゃなくて、ただぞわぞわって」 「なにそれ可愛い」  必死に身を捩りながら英司の肩をぐいぐいと押して抵抗するが、逆に意地悪モードに入ってしまった英司はくすぐりを続ける。  あんたの可愛いの基準がマジでわからない!  またあの例の『ご飯の礼に言うことをひとつ聞く』のときみたいに、猫のように喉元をくすぐられでもしたら……。なぜか急にそのことを思い出して、喉がゴクリと鳴った。
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