4. それは単純で特別な

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 あれは、本当に未知の感覚で、記憶は曖昧なんだけど、わけがわからなくなって、こうものすごく……いやいや、あんなの脇くすぐられるのとそう変わらないはずだろ。  とにかく、ここだけはだめだ。今度こそおかしくなってしまう気がする。  でも、思い出してしまうと余計に意識がいってしまうというもので。うなじを撫でる英司のスラリとした指に、思わず熱っぽい息を漏らした。 「千秋、とろんてしてる。やっぱり、撫でられるの好きだろ?」 「ちが……」  だんだん力が抜けてきて、英司に正面から寄りかかってしまわないように踏ん張るので精一杯だ。  たしかに撫でられるのは嫌いじゃない。ただ、頭を撫でられるのが好きという分には普通でも、喉元となるとそれは……まあ好きじゃないんだけど!  ……でも、もう一回だけ、ちょっとだけ、という気持ちが隅からひょこりと出てくる。あの時の感覚はなんだったのか、もう一度確かめたいのだ。  でも、頼むのか?前みたいに喉を撫でてくれって?嘘だろ、そんなことできるわけがないし、するわけがない。  千秋は言わずして撫でさせる方法を考える。今最高に馬鹿なことを真剣になっているな、と千秋は自覚していたが、この好奇心か欲望かが優ってしまっている。  なかなか良い方法は思い浮かばず、考えている最中、無意識に何度も自分で喉元に触れてしまっていたらしい、英司がうなじを撫でる手を止め言う。 「ここ、前みたいにしてほしいんだ」  心の中を読まれたかと思って、えっ、と素の声が漏れた。英司の目線は、さっきからずっと意識していた喉元に注がれている。 「なに、言ってるんですか」 「ずっと喉気にしてるよな」 「は、そんなことっ」 「前撫でたの、気に入っちゃった?」  そう目を細めて意地悪く笑った英司が、不意に、するりと喉元を指の腹で撫でた。 「ひぁ……っ」  さっきから望んでいた感覚が急に訪れて、あられもない声が出る。
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