4. それは単純で特別な

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 かあっと赤くなって、とっさに後ずさる。 「い、いきなりっ」 「あーやっぱり。相当好きなんだろ、ここ」 「あ……」  くすぐる英司の腕を掴んで抵抗を試みようにも、一度撫でられただけで力が抜けてしまって全く意味をなさない。  だめだ、これ、やっぱり気持ちいいかもしれない……。 「ぐぅ……」  そうして撫でられているうちに、とろとろと全身が溶けていくような心地になり、ついに千秋はぽすんと英司の胸に体を預けた。「千秋、すっごい可愛い顔してる」 「う……」  胸元に頬をくっつけながら放心する。英司はその千秋の頬をぷにぷに弄んだ。気まぐれに顔を寄せ軽いキスを落とし、甘い雰囲気が二人を包む。目が合うと、むず痒いような恥ずかしいような感じがした。  そっか、柳瀬さんの恋人になったんだ、おれ。改めて思うと、じわじわと体が熱くなった。  しばらくして、英司が千秋をベッドに引き上げると、力の入っていない千秋の服を脱がし始めた。もう、これからなにをするかはわかる。  少し久しぶりだからか、二人ともいつもより急いているようだ。 「……千秋」  上から見下ろして、男の顔をした英司が、優しいキスを顔中に降らせる。  ……これ、されると、すごく幸せな気持ちになる。 「えいしくん……」  普段は絶対にそんなことしないのに、千秋はふわふわとしたまま首に手を回して、ふにふにと唇に数回、幼稚なキスをお返しをした。 「……やば」  手で口元を押さえた英司が、眉に力を入れて何かに耐えるような表情を見せる。  そして、ふー……と興奮したように息を吐くと、ギラリとした瞳が千秋を捉えた。  ああ、この目、この顔だ。「抱くぞ」と言っているような。 「千秋……好きだ、本当に好きだ。ぜってえ離さない」 「っ……」  千秋の心臓がぎゅんとなった。  ……こんなの、もう絶対元になんか戻れない。戻りたくない。言いこそしないが、心の中で強く思った。  そのまま深いキスにもつれ込んで、隙間なく抱き合って、どろどろになるまで触れられて。その行為に、今までにないほど夢中になった。  まだ外は明るい。でも、そんなこと今日はどうでもいい。  たくさんの気持ちいい、心地のいい感覚に身を委ねて、ただひたすら英司だけを感じていた。  途中で、噛み締めるように小さく言った「恋人になってくれてありがとう」という切実な言葉は、千秋をどうしようもなくさせた。その言葉、表情、声音、俺は一生忘れることはないだろう。
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