5. タイミングってやつ

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5. タイミングってやつ

 夏休みに突入した。  といってもすでに8月下旬であり、残すところあと3週間ほどである。 「柳瀬さん、これ今日のです」  眩しい日差しが刺す中、玄関前で千秋は弁当袋を渡した。 「おう。ありがとな」  英司がワクワクとしてそれを受け取るのを見ていると、頬に軽いキスをされる。 「ちょっ」  ここ外なんですけど……!  頬を押さえてぱっと後ろに下がるのだが、英司は真っ赤な千秋を面白そうに笑って歩き出す。周りに人がいなくてよかった。その後ろ姿を睨んでやりながら、パタパタと隣に並ぶ。 「外ではやめてくださいよ」 「家でたくさんしてってこと?」 「変な風に言い換えるのやめてください」  二人でたわいもないやりとりを繰り広げながらエレベーターに乗って降りると、英司は大学へ、千秋はバイトへとそれぞれ向かわなければいけない。 「じゃあ……。あ、なんかいるもんあったら言って、買って帰るから」 「はい、じゃあ思いついたらメールします」 「わかった。じゃ、またあとでな」  しばらく英司の後ろ姿を見送った後、反対方向のバイト先に向かい始める。  今日も暑い。空を見上げようとしたら太陽が眩しくて無理だ。昼を過ぎればもっと暑くなるだろう。  英司が倒れたり千秋が毎日ご飯をつくる宣言をしたりと、色々あったが何とか収まり、恋人になった二人。日はまだ短いが、なんとかうまくやっている。  英司は休みにもかかわらず忙しいようだが、それでも余裕が少しできるらしく、一緒にいる時間は確実に増えた。まあ、千秋も平日の昼間にバイトを増やしたので、ちょうどいいくらいだ。
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