5. タイミングってやつ

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 弁当のことについては宣言通り、さっきのようにほぼ毎日渡していて、英司は必ず空にしてくる。  これを説明するのは恥ずかしい極まりないのだが、千秋の弁当を食べ忘れる又は食べ残すなど言語道断らしい。  夜も時間が合う日は今まで通り一緒に食べたりしている。空腹で倒れることはなくなったらしいし、顔色も確実に前より良くなってる気がする。  自分で言うのもなんだけど、作戦はうまくいってると言えるだろう。  そういえはあの件以来、連絡を取り始めた恵理子から、たまに弁当を食べている英司の写真が送られてくる。二人の関係を知るのは恵理子だけだ。  撮られていることに気づいていないものばかりだったが、大学での英司が新鮮だったので保存した。  別に写真が欲しかったわけじゃない、何かあったらこれでからかってやろうと思ったのだ。 「ん?」  ピコンと誰かからメッセージが届く音がしてスマホを開いた。  同じく夏休み中の拓也から、明日映画を見に行こうという誘いだ。  休み間、拓也とは何回か遊んだりしたが、実はその度に英司が不機嫌になるので大変だったのだ。  全く、ただの友達だっていうのに。しかも今のところ遊ぶ友達といえば拓也くらいなのだ。友達の前に、貴重な、がつく。  明日のスケジュールを確認する。明日はバイトのない日で、英司が帰ってくるのも夕方くらいだったはずだ。  ……いや、まあ柳瀬さんとの方が会ってるし、1日オフだったとしてもわざわざ合わせにいくことはないのだが。  柳瀬さんのこと中心に考えすぎだろ俺、とぶんぶん頭を振ると、行く、と返事をした。すぐによくわからないキャラクターのスタンプが返ってくる。  映画は以前見たいと思っていたものだったが、もう公開されたのを知らなかった。そういえば、拓也も見たいって言ってたな。こういう趣味は合う。  拓也はあいかわらず合コン惨敗らしいし、たまには慰めてやらないとな。  千秋は調子のいいことを思いながら鼻歌混じりに足を進めた。
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