5. タイミングってやつ

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 いつも通りバイトが終わって家に帰ると、はっと思い出した。  今夜はトンカツを作るつもりで買い物をしてから帰ってきたのだが、大事なソースを忘れていた。買おう買おうと思っているものほど買い忘れるのはなぜだ。  柳瀬さんに、帰りにトンカツのソース買ってこれるかとメッセージを送ると、OKというスタンプが返ってきた。  あれ、この変なスタンプ、拓也と同じじゃないか。あんなに敵視しているくせにと笑いそうになる。  たぶん、柳瀬さんが帰るまで一時間以上はある。さっと風呂に入ってから作り始めるとしよう。  髪を乾かし終えたところで、意外にも早く英司が帰ってきた。 「あ、おかえりなさい。すいません、ご飯今から作るんですけど大丈夫ですか?」 「ただいま。じゃあ一緒につくれるな。あ、これソース」  と言うと、カバンから取り出したソースを見せつけてくる。千秋に頼み事をされたのが嬉しかったらしい。  それしか買ってないからだが、カバンの中にぽつんとソースが入ってるってなんかおもしろいかも。 「風呂はいってた?」 「え?はい」  台所で夕食をつくる準備をしてたら、手と顔を洗ってきた英司が髪に触れる。 「ほかほかしてて可愛い」 「あ、暑いんですよ……」  最近わかったことだが、英司は風呂上がりの千秋がお気に入りらしい。  後ろからきゅっと抱きしめられて、頬をすりすりされる。  冷房はきいてるけど、こんな夏にこんな暑苦しいことをしている。ご飯もつくれれないし非効率極まりないのに、こんなに心満たされるのはなぜだろう。
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