5. タイミングってやつ

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 結論から言うと、本当に「たくさん」だった。 「ふぅ……」 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃないです……」  ベッドでぐったり横たわっていると、英司が水の入ったコップを持ってきた。しかし受け取ろうと思ったら、目の前で避けられ、すかっと手が宙を切る。 「柳瀬さん、水……」 「やりたいことがあるんだけど」 「はい?」  この疲れ切っている体になにをやらせようと言うのか、英司は何か企んでいる顔だ。警戒した状態で、次の言葉を待つ。 「口移しさせて」 「は!?」  くちうつし……口移し?口移し!?  予想外のことに、すぐに言葉が出てこない。口移しってあれだろ、漫画の中だけである……しかも、手が塞がってるとか、風邪のときとか、少なくともシチュエーションが限定されてるだろう。  それを今、ここでやれと? 「無理です。チェンジで」 「だめだめ、拓也くんと遊びたいなら俺の機嫌とっときな?」 「は!?」  ここで出してくるなんて、なんて意地が悪いんだ。絶対わざとだ。本当はもう拓也のことなんてどうでもいいけど、願望を通すためだけに言ってるだけだろう。 「な、お願いだから」 「うう……」  そ、そんなに口移ししたいのか、この人……。  コップ片手の英司の熱量に押されて若干引きながらも、千秋は一つ覚悟を決める。  口移しなんて普通はやらないけど、考えてみれば大したことじゃないのではと思い始めてきた。  こ、恋人同士なら……これくらい許してやってもいいのかもしれない。実際やるのは柳瀬さんで、俺はなにもしないわけだし。
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