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結論から言うと、本当に「たくさん」だった。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです……」
ベッドでぐったり横たわっていると、英司が水の入ったコップを持ってきた。しかし受け取ろうと思ったら、目の前で避けられ、すかっと手が宙を切る。
「柳瀬さん、水……」
「やりたいことがあるんだけど」
「はい?」
この疲れ切っている体になにをやらせようと言うのか、英司は何か企んでいる顔だ。警戒した状態で、次の言葉を待つ。
「口移しさせて」
「は!?」
くちうつし……口移し?口移し!?
予想外のことに、すぐに言葉が出てこない。口移しってあれだろ、漫画の中だけである……しかも、手が塞がってるとか、風邪のときとか、少なくともシチュエーションが限定されてるだろう。
それを今、ここでやれと?
「無理です。チェンジで」
「だめだめ、拓也くんと遊びたいなら俺の機嫌とっときな?」
「は!?」
ここで出してくるなんて、なんて意地が悪いんだ。絶対わざとだ。本当はもう拓也のことなんてどうでもいいけど、願望を通すためだけに言ってるだけだろう。
「な、お願いだから」
「うう……」
そ、そんなに口移ししたいのか、この人……。
コップ片手の英司の熱量に押されて若干引きながらも、千秋は一つ覚悟を決める。
口移しなんて普通はやらないけど、考えてみれば大したことじゃないのではと思い始めてきた。
こ、恋人同士なら……これくらい許してやってもいいのかもしれない。実際やるのは柳瀬さんで、俺はなにもしないわけだし。
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