友達

2/2
前へ
/8ページ
次へ
 影くんは引き下がりませんでした。 「それでも、ぼくは実在していたんだよ。たしかにワルモノは大希くんの想像した妖怪もどきだった。でも『影くん』は、大希くんが創造した――音が同じだけど、空想じゃない方の――実在の男の子だった」  僕が言い返すよりも早く、影くんの右手が上げられました。また目隠しをされてはいけないと、僕は一歩下がります。 「何もしやしないよ。証拠を見せようっていうだけさ」  言うが早いか、影くんの全身に異変が起こりました。それまで影法師に目鼻をつけただけのようだったのが、たちまち輪郭がはっきりし始めたのです。肌の色も変わり、髪の毛は茶髪になって、数秒後には僕とそっくりな青年が目の前に立っていました。 「大希くんに創り出されて、初めのうちは本当に影でしかない存在だった。けれど家を飛び出して、君と別れてからいろいろあって、今やすっかり人間もどきだよ。そうだな、まだ人間になりきれない、妖怪みたいなものだね」  顔から血の気が引いていきました。影くんの口にしたことが事実だと、心のどこかで分かったからです。  だいぶ時間が経って、心臓の音が鳴り止んでから、僕は口を開きました。 「君はもう、二度と僕に会うつもりがないと思っていたのに」  影くんは、「ふん」と鼻から息を吐いて、答えました。 「ぼくは今、涼前影二(りょうぜんえいじ)と名乗っているんだけど、持ち前の特殊能力を活かして警察の手伝いをしているのさ。人間になるための修行と、人間になった後の安定収入のためにね」  影くんが言うには、そこで僕の近況に触れる機会があったそうです。 「大希くん、今付き合っている友達は、良くないよ。はっきり言えば犯罪集団だ。警察に目をつけられている」 「どうしてわざわざ忠告をしてくれるの?」 「大希くんはここで、スマフォ片手に何をしようとしていたんだい? 困るんだよ。ぼくと同じ顔をした人物が犯罪をするのは」  影くんは、子供の頃とは違う、冷淡な口調で答えました。もっとも、子供の頃と違ってしまったのは、お互い様だったのですが。 (了)
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加