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影くんは引き下がりませんでした。
「それでも、ぼくは実在していたんだよ。たしかにワルモノは大希くんの想像した妖怪もどきだった。でも『影くん』は、大希くんが創造した――音が同じだけど、空想じゃない方の――実在の男の子だった」
僕が言い返すよりも早く、影くんの右手が上げられました。また目隠しをされてはいけないと、僕は一歩下がります。
「何もしやしないよ。証拠を見せようっていうだけさ」
言うが早いか、影くんの全身に異変が起こりました。それまで影法師に目鼻をつけただけのようだったのが、たちまち輪郭がはっきりし始めたのです。肌の色も変わり、髪の毛は茶髪になって、数秒後には僕とそっくりな青年が目の前に立っていました。
「大希くんに創り出されて、初めのうちは本当に影でしかない存在だった。けれど家を飛び出して、君と別れてからいろいろあって、今やすっかり人間もどきだよ。そうだな、まだ人間になりきれない、妖怪みたいなものだね」
顔から血の気が引いていきました。影くんの口にしたことが事実だと、心のどこかで分かったからです。
だいぶ時間が経って、心臓の音が鳴り止んでから、僕は口を開きました。
「君はもう、二度と僕に会うつもりがないと思っていたのに」
影くんは、「ふん」と鼻から息を吐いて、答えました。
「ぼくは今、涼前影二と名乗っているんだけど、持ち前の特殊能力を活かして警察の手伝いをしているのさ。人間になるための修行と、人間になった後の安定収入のためにね」
影くんが言うには、そこで僕の近況に触れる機会があったそうです。
「大希くん、今付き合っている友達は、良くないよ。はっきり言えば犯罪集団だ。警察に目をつけられている」
「どうしてわざわざ忠告をしてくれるの?」
「大希くんはここで、スマフォ片手に何をしようとしていたんだい? 困るんだよ。ぼくと同じ顔をした人物が犯罪をするのは」
影くんは、子供の頃とは違う、冷淡な口調で答えました。もっとも、子供の頃と違ってしまったのは、お互い様だったのですが。
(了)
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