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影くんの言う「ワルモノ」とは、いつの間にか家に住みついた居候です。理由は分かりませんが、僕のことをとても嫌っているのでした。
「そう言えば、姿を見なかったな。そもそもあんなやつ、怖がらなくたっていいのに」
「そうかなあ。どっかに隠れているのかも」
「へいきへいき。ワルモノなんて呼ばれてても、ちくってばかりで自分じゃなんにも出来ないんだから。今日はさ、いっしょに外で遊ぼうと思って来たんだ」
影くんのように何でも出来ればいいのでしょうが、何をやっても上手くいかない僕は、心の底からワルモノのことを恐れていました。直接嫌なことをされなかったとしても、パパやママに告げ口をされたら大変なことになりそうだからです。
「君は平気かもしれないけれど、僕はやっぱりこわいよ」
「じゃあ、何して遊ぶ? やっぱ、公園へ行こうよ」
僕を外に連れ出そうとして、影くんは何度も聞いてきました。
「じゃあ、児童館。だめなら……」
「いやだよ。僕は家から出たくないんだ」
結局、僕の意見がとおって、家の中で遊ぶことにしました。影くんは、「ワルモノは家にいなかった」と言いましたが、どこかに隠れているだけかもしれません。だから影くんが大声を出したり、大きな物音を立てたりするたびに、ワルモノがやって来るのではないかと思い、僕は胸がどきどきしました。それでもやっぱり、スリルがいっぱいなところも合わせて、友達といっしょに遊ぶのは楽しかったです。
「大希くんのママ、接近中」
影くんが偵察任務先のベランダから、息を切らせて帰ってきました。僕の手がわなわなと震え出します。それに気づいたのかどうか、影くんは声を落としてこう付け加えました。
「なんだか、機嫌が悪そうな顔をしてた」
僕たちは大急ぎで、散らかした物を元どおりに片付けました。ママがいない間に友達を家に呼ぶと、叱られるからです。影くんは行動が素早くて、玄関の錠が音を立てた時には、もう姿を消していました。
僕はその夕方、たっぷり叱られました。影くんが持ってきて、僕のお腹に入ったクリームパンは、ママがおやつに取っておいたものだったからです。ベーカリーの袋が僕の部屋に落ちていたのも、良くなかったのかも知れません。
いつの間に戻ってきたのか、ワルモノがあることないこと言うので、ママのお説教は長く続きました。晩ご飯の支度も遅れました。そのせいでお腹を空かせて会社から帰ってきたパパが、僕に腹を立てたのです。頬を緊張でひくひくさせているパパの耳元で、ワルモノが何かを囁いていました。きっと僕の悪口だったのでしょう。
僕はその夜、晩ご飯を食べずに寝ました。
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