ワルモノ

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 困り切った僕の頭に、突然のひらめきがありました。 「あの、影くん。僕は宿題をやりたいんだけど」  そう切り出したものの、遊びに来てくれた友達に、「帰ってくれない?」なんて、どうしても言えません。僕が口をつぐむと、影くんは急に立ち上がりました。 「いいよ。じゃあその間に、ぼくは探検してくる」 「影くん、やめなよ、あぶないよ。パパもママも出かけているけど、あいつがいるかも知れないし」 「ワルモノなんて怖くないさ。ついでに偵察とかしてくるから、宿題やっておきなよ」  影くんが戸の隙間から身を滑らすようにして出て行くと、僕は暗がりに残されました。さっきまでそれほど暗いとは思わなかったのに、一人になってみると漢字練習帳の大きな文字も読めないほどでした。明かりを点けようとして、壁のスイッチを押しても何も起こりません。それもそのはずで、僕の部屋の蛍光灯は先日、ワルモノの手で壊されていたのです。  困っていると、影くんがひょっこり戻って来ました。戸の向こうから、僕を手招きしています。 「影くん! どうしたの」 「宿題やるならさ、明るいところじゃなきゃ。見て来たけどワルモノはどこにもいなかったし、チャンスだよ。リビングでやろう」 「でも、ママが帰ってくるまでに終わらせなきゃいけなくなるし」 「ここにいたって、1ページも進まないだろ? ぼくが監視カメラになるから、おいでよ」 「ここ、僕の家のはずだけど」  影くんは目を細くして、白い歯を見せて笑いました。僕はリビングへ行き、ローテーブルの前に腰を下ろして宿題をやります。  そうして、どのくらい時間が経ったでしょう。いつもより高い影くんの声がベランダの方から聞こえて来ました。 「大希くん、ママが帰って来たよ」  玄関のドアが開いてほんの数秒で、ママがスーパーのレジ袋を提げたままダイニングキッチンへ入って来ました。僕は身動き取れずに、やりかけの宿題を前に身を固くします。影くんはいつもどおり、まるで煙のごとく姿を消していました。 「ごめんなさい。宿題をしてました」  ママは、「早く終わらせなさい」とだけ言いました。影くんが何かしてくれたのか、それとも偶然か、ワルモノはその日、帰って来ませんでした。  僕は次の日、学校へ行って宿題を提出しました。給食は初めて食べる料理でしたが、とても美味しかったのを覚えています。
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