大富豪酒井家

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俊二が、時々帰って来るのには、理由が有った。 隣り町に、東京で仲の良かった友達が、引っ越して来て住んでいると言い 帰る度に、会いに行き、泊って来たりする。 「その友達、一人暮らしなんだって? うちの野菜と果物、持って行ってやるか?」紘一がそう聞くと 「弥冨の奴、食費が浮くって、大喜びだと思うよ」と 俊二は、自転車の後ろに積み、喜んで持って行った。 そして「すっごく喜んでくれたよ、何か手伝う事が有ったら 行きますってさ」帰って来て、そう報告した。 娘の陽菜も、病気ひとつせず、すくすくと育ち、一歳の誕生日を迎えた。 親戚や、付き合いの有る所から、沢山のお祝いが届いたが 派手な事が嫌いな紘一は、家の者だけで、細やかな誕生祝をした。 俊二も、玩具をどっさり買って帰って来て、祝いの席に加わった。 翌日、紘一は、山の手入れをする為 太助と、山の頂上付近で、仕事に精を出していた。 「太助さん、一服しよう」紘一は、そう言うと傍の大きな岩に腰掛け 水筒を手に持ったが、急に立ち上がると「太助さん、ちょっと用を思い出した 悪いが、後は頼む」紘一はそう言うと、急いで山を下りて行く。 急に、どうしたんだろうと、紘一が見ていた方を、太助も見ると 畑の傍の藁小屋から、塔子が出て来て 慌てた様子で、家の中に入って行くのが見えた。 「藁小屋に、何の用が有ったのだろう?」太助は首を傾げた。 その後で、下まで下り付いた紘一が、小屋の中に入って行ったが 直ぐに出て来た、太助は、そこまで見て、また仕事に戻り 日暮れまで働いて、山を下りた。 太助が、道具を納屋に仕舞っていると、車で帰って来た紘一が 「太助さん、明日は、お婆様の所へ行ってくれないか? 誕生祝を貰ったお礼に、陽菜を連れて行くと、約束したんだが 私は、急用が出来てね、私の代わりに、行っておくれ」 「はい、では、奥様とトキさんも?」「ああ、お返しは、車に積んである 宜しく頼むよ」「はい、お任せ下さい」と、言う事で 翌日、太助は、一張羅のスーツを着て、紘一が、朝、採った野菜や果物も 車に積み、陽菜を抱いたトキと、今日も美しい塔子を乗せた。 本家は、かなり遠い、こんなに早く出ても、帰りは遅くなる。 「お婆様に引きとめられたら、泊っても良いからね」 紘一は、優しく塔子にそう言った。 「はい、では行ってまいります」お婆様と言うのは 酒井家の本家の頂点にいて、親戚中に、睨みを利かせている人だ。 本家は本家だが、資産的な立場は、逆転していて 分家である、紘一の酒井家の方が、はるかに豊かだった。 大富豪になった分家に、本家なんだからと、本家の男達は 無理な融資を頼んで来たりするが 欲の無い紘一は、快く融資をしてやる。 そんな紘一を、お婆様は、親戚中の誰よりも、可愛がっていた。
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