ヤバい姉ちゃんが旅の連れ合いになりました

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ヤバい姉ちゃんが旅の連れ合いになりました

朝起きれば自分や家族のことよりもまず牛の様子を見に行く。 それが15歳になり牧場の後継ぎを意識し始めたビーフの日課だ。 牛たちの健康状態はフンを見れば分かると父に教わった。 フンは牧場が安定した経営をしていくために重要で宝石のような価値がある。 「おはよー、みんな!」 フンのチェックを終えると牛小屋を解放した。 基本的には放し飼いにしていて、中からぞろぞろと牛が出てくるのを見届ける。 「あ、こらこら! 喧嘩は駄目だって!!」 牛小屋の奥で飼葉を取り合っている三頭はいつも問題を起こす問題児たちだ。 「ポーク、ラムチョップ、シュガー! 取り合いは駄目!!」 全ての牛には名前を付けている。 父が付けた牛もいればビーフが付けた牛もいる。 この問題児たちは父が名前を付けた。 急いで草を追加してやると、満足そうに食べ始めた。 嬉乳を出しているのが微笑ましい。 「全く・・・。 そうだ、井戸から水を持ってこないと」 水汲みも習慣で、牛を外に出している間に掃除と飲み水の補充を行うのだ。 バケツを四つ持ち井戸へと向かう。 井戸水の汲み上げはなかなかの力仕事。 汗をかきながら水を汲み牛舎の水置き場に移した瞬間のことだ。 「・・・ん?」 突然降り注いでいたはずの太陽の光が遮られた。  「通り雨かな? 牛たちを中に入れないと・・・」 そう思い急いで放し飼いにしている牛たちのもとへ向かうため牛舎を出た。 その瞬間驚くべき光景を目にすることになる。 「なッ・・・!」 空から舞い降りた巨大なドラゴンが二頭の牛を捕らえ、そのまま飛んでいこうとしていたのだ。 「プルート! エリザベス!!」 ビーフの叫び声とドラゴンの羽ばたく音で両親と姉のリースも起きたようだ。 慌てて駆け付けてくるが時既に遅し。 「ま、待つんだドラゴン!!」 ドラゴンは大きな手でそれぞれ牛たちを掴んでいった。 追いかけようとするが地べたを走ることしかできないビーフが、空を飛ぶドラゴンに追いつけるはずがなかった。 「おいおい、ドラゴンがこの辺りにやってくるなんて・・・!」 両親は慌てて顔を出す。 姉は遅れてやってきたにもかかわらず、眠そうに眼を擦るばかりだ。 「プルートとエリザベスが!!」 ビーフは訴えかけるよう叫んだ。 大切に育てていた二頭が連れ去られ、これでは大幅な減収となってしまう。 エリザベスは乳牛として稼ぎ頭だったのだ。 嬉乳を漏らしてしまうような駄牛とは格が違う。 「・・・僕がドラゴンから取り戻してくる」 ビーフが一から取り上げた思い入れの深い牛たち。 単純に金の問題だけでなく愛着も深い。 だが連れ去ったのがドラゴンともなれば、両親の心配も当然のことだった。 「そんな、無茶よ!」 「ビーフはまだ15歳になったばかりだ。 あんなに大きなドラゴンに勝てるわけがない! 簡単に餌になってしまうぞ! いいのか?  牛たちにとっての草くらいの価値しか、ドラゴンはお前に価値を見出さないんだ!!」 止められるもビーフは両親の説得も聞く気はなかった。 「僕は大丈夫だから。 父さんたちは残った牛たちの世話をしていてほしい」 「え・・・。 お前に後を継いでもらって早期リタイアできると思っていたのに。 本当に行ってしまうのか?」 「なるべく早く行かないと。 明日にでもプルートとエリザベスは夕食のおかずになってしまうかもしれない」 「歳を取った乳牛は食ってもあまり美味くはないんだがなッ!」 父は驚いた顔を見せる。 「うん。 だから止めないで、父さん、母さん」 「「・・・」」 両親は不安気に顔を見合わせていた。 それも無理はない。 相手はドラゴンなのだから。 「・・・その覚悟は本物なんだな?」 「うん」 「じゃあせめて、お姉ちゃんも一緒に旅へ連れていってやってくれ」 その突然の提案に反応したのはリースだった。 「えぇ!? どうして私も行くことになった!?」 「そりゃあ、お姉さんなんだから行くに決まっているでしょ! というか行かないと!!」 母の言葉にリースは呆気にとられる。 「・・・嘘、でしょ? 来週学校の試験があるのに・・・。 マジ?」 「それまでに戻ってくればいいだけの話だ。 頼んだぞ!」 「私はただの道づれじゃない・・・。 拒否権もないだなんて、この家は狂ってる」 こうしてビーフとリースはプルートとエリザベスを取り戻しにドラゴンのもとへと向かうことになったのだ。
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