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未就学児は運賃無料
父親の不倫が原因で両親が離婚をした。その結果、当時では当然のように私たち兄弟は母子家庭の子供となった。
お袋は今市というところで店舗を借り駄菓子屋を始めた。欠片となった記憶を総合すると当時の私は小1ぐらいである。
家計を支援しようと兄は新聞配達をしたが私も何かしら手伝った記憶がある。
「お早う、僕は・・何年生になるのかな?」
まだ夜が明けきらぬ始発の路面電車の中だ。乗り合わせて居たオジサンが、まるで知り合いかのように子供の私に話しかけて来た。
「僕ぅ~?・・ぼくね~いち・・・」
私の返事に、少し離れて立っていた車掌さんが思わず私に視線を移し、固唾を呑む。
「すみませんね、この子人見知りするんで・・来年から小学生に上がるんですよ!」
お袋は1年生って言いかけた私の言葉を遮ってしまった。
「あっそうか、来年1年生に成るんだ⁉・・こんなに早くからお母さんとお出かけかね?・・偉いね⁉」
お袋とお出かけする私がそんなに『偉い』のだろうか?・・そう言えば私はいつもお袋には『嫌や!』と拒否できない状況で連れて来られている。
ん?・・もしかしてこのオジサンそれを知ってるの? だから『偉いね』って言ってるのかも知れない。
〇それは前日の夜に言い渡されたことである。
「フゥちゃん、明日の買い出し(仕入れ)に着いてきて来てくれへん?」
「えっ・・また~?」
「そんなに嫌がらんとお母ちゃん手伝って~な、一人で沢山の荷物持たれへんやろ、お母ちゃん倒れたら大変やろ・・頼むわ⁉」
このようなことで学校を休むことは珍しくも無かった。お陰でただでさえ出来の悪い私は、益々授業に着いて行けず学校が嫌になっていた。
「行ってもエエけど、電車の切符、買うてくれる?」
「勿論や!買うたる、明日は絶対に買うたるがな!」
買い出しの手伝いを躊躇うのには、小1の私を未就学児だと偽って、お袋はいつも切符を買おうとしない、それが子供心にも恥ずかしかったのかも知れない。
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