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うちの子は遊ばれへんのや!
「お母ちゃん・・未だか?~、僕もう腹減って死にそうや」
「今日は、まだ死んだらアカン!」
「今日は・・って? なんで今日だけやのん?」
「ご飯食べたら、ネーム折って欲しいねん、このポロ、お母ちゃん今日中に仕上げなアカンのや」
「えっ!今日は僕、野球行くねん、約束してるんやもん!」
「アカンのや、ウチは野球やるような裕福やないねん、お母ちゃんを手伝うて!」
そうこうしているうち、友達が誘いにやって来た。
「板倉君、遊ぼ!」
「お~い板倉! 迎えに来たったぞ! 早よせいや」
友達複数の私を誘う声がする。
「うちの子は遊ばれへんのや! 野球なんかせんかっても(出来なくても)死なへんのや!」
玄関の引き戸を開けようともせず、お袋が外に向かって大声で返事した。
「ゴメン、用事が出来てん・・ホンマゴメン」
私は引き戸を半分開けて顔と合掌した手だけを覗かせ、友達に誤った。
「お前、一人足らんかったら野球にならんの知ってるやろ、どないしてくれんねん!」
「行かれへん、言うたら行かれへんねや! 喧しい言うてんと早よ何処なと行きや!」
再びお袋が叫ぶ。
「もう、お前・・絶対誘えへんからな! もう、お前とは絶交や!」
あれから60ウン年になるな・・今頃どないしてるやろあの友達ら・・
このコロナ禍で2度ほど中止になっているが、2年前の同窓会では、そんな出来事など完全に忘れていた。誰が言ったのかも思い出せない。
でも、あの時私に「お前とは絶交や!」と言った君、本当は一生忘れられない出来事だったりして?
そもそも初回の同窓会なんて誰が君だったのか、どなたが貴女だったのかを照合することすら、困難を要していた。
73歳の人生を過ごした者にとっては、『60年間の空白』のパズルを埋め込んでいくなど天文学的な感は否めない。
「お願い」
このエッセイは個人の記憶をもとに創られたものであり、登場人物などの氏名は実在の者では御座いません。
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