はて、あの子はあの時の。

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いつも一人だった。 どこに行っても何をしても一人。あれ、みんなに私は見えているのかなって何度も思った。まぁそれは杞憂だったようだ。どうやら見えているらしい。だって時々他人と目が合うもの。まぁすぐに目をそらされてしまうのだけれど。しかもお化けを見たような青い顔をしてだ。なんともまぁ失礼な話だこと。見ての通り私には立派な脚が生えているし影もくっきりと地面に映っている。正真正銘、私は生きている人間だ。 そんな私にも友達だと言ってくれた人がいた。相手の顔も覚えていないずっずっと昔、まだ私が一人でも平気と声に出せていた頃だ。あの日も一人で公園のベンチに座っていた。誰も座っていないブランコが揺れていたから風が強い日だったんだろう。 『何してるん?』って背後から声をかけられた。人に話しかけられるなんて久しぶりすぎて声が出なかった。私が返事をする前に相手は色々と私に話しかけていた。さっき犬のような雲を見たとかこの先の庭に赤い大きな花が咲いていたとか自転車で勢いよくくだったら気持ち良いだろう坂を見つけたとか。ひとしきり喋ると『もう帰る時間だ。またね。』と帰っていった。 それからほぼ毎日あの公園であの人に会った。最初はビックリして声も出せなかった私だったが、今では軽くひと言返事を返せるまでになった。初めて会った日から1ヶ月ぐらい経った頃、もうすぐ引っ越すんだと小さな声で言われた。もともとお父さんが転勤族であちこちと短期間で引っ越しを繰り返しているとも言った。 そうか、引っ越すのか。このベンチでふたり並んで喋るのももう終わるのかと思うと胸と鼻がツーンと痛んだ。『ここで過ごしたのは本当に短いあいだだったけど、最後に大好きなお友達ができて良かった。』と素敵な笑顔を見せて言った。友達。私にできた、最初で最後の友達だった。 日も落ち始めて空が茜色になった頃、じゃあね、って 、まだ次の日も会うような感じで手を振って別れた。ただ最後の最後で『また会えて良かった。』と言われたのはよくわからな かった。どういう意味なんだろう。それからは全くあの人には会っていない。いつかまた会えるだろうか。会ってくれるだろうか。そうして今日も、私はさまよう。
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