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6 雨の檻
金糸雀の館で団員が負傷し入院という事件は、瞬く間に学院で広がった。
連絡を受けた職員、医師を手配した職員、それを見ていた職員。大人たちには朝の時点で知れ渡っていたものの、誰が女学生に洩らしたのかは不明だ。
ただ、団員の中に口を滑らせた者がいるとすれば、同級で共に新入りとなった万千だろうと誰かが言い出した。
夕刻、再び食堂に集うと睦子の敵意は私から万千に移っていた。
「とんだ恥晒しじゃない!」
「伽怜さんの事故は恥ずかしい事ではありません!」
「やめなって!」
真っ赤な顔で睨み合う睦子と万千の間に響瑚が割って入る。鷲子が私の背後に隠れた。美登利と玉枝と沙由李は配達されてあった食料を忙しく運び込び、勝手口から出たり入ったりしていた。
花が湯を沸かし、伊鈴は御茶請を準備している。
風子が鷲子の手を取って勇気付けるような笑顔を向けた。
「来て、鷲子さん。茶箪笥の中を解説するわ」
私もなにかを手伝うべきだろう。
「私が伽怜の事を言ったんだ」
「え? なぜ?」
「先生たちの話を聞いて混乱している子たちがいたから普通に説明した」
「醜聞になるじゃない!」
目の前で言い争いが始まってしまい動くに動けないでいると、響瑚に促された万千が逃げてきて半べそで私の手を握った。
「あの方、ちょっとおかしいわ」
私は無言で万千の手を握り返した。
それからは朝と同じ流れ。
美登利が花に変わっただけで、全員分の御茶を配り落ち着こうと促した。
睦子は食卓に肘を付いて項垂れ苦悩し、それを沙由李が励ます。
伊鈴と風子が喧しく喋り出し、響瑚と花が見守る。
美登利と玉枝は夕飯の相談。
鷲子は私の隣で黙りこくったまま。
万千は昨夜には伽怜が座っていた椅子を切なそうに眺めるものの、伊鈴たちに笑顔で相槌を打っている。
ふいに、伊鈴が口を止めて窓を眺めた。
響瑚と花と風子も同じように窓を眺める。
赤い夕焼け空。
「凄い雨だね」
響瑚が呟いた。
外は赤い夕焼け空。雨など降っていない。
「きゃっ」
花がびくりと肩を竦め、伊鈴がその肩を抱く。
「大丈夫だって」
「私、雷だけは本当に苦手で」
「確かに。蛇も百足も手づかみですものね」
風子は楽しそうに窓辺に駆け寄った。
美登利が炊事場に向かいながら声をかける。
「ふうちゃん。そこの雨戸、閉めちゃって」
「はぁい」
風子が窓を開け、雨戸を閉めた。
まるで本当に雷雨のような対応だ。
「よし。2階も閉めとくか」
「私もいくわ」
響瑚が腰をあげ、玉枝が続く。
「それじゃあ、洋室さんは各部屋よろしく。睦子、やよ様の部屋、よろしく」
そう言って響瑚が睦子の肩に手を置いた。
食堂の雨戸が次々と閉められていく中で、私も伊鈴に促されて立ち上がる。花がびくびくと肩を竦め続けているから、雷に怯えているようだ。
でも雨は降っていない。
仕方なく鷲子を伴って伊鈴と花に続き階段をあがり、自室に入る。
窓の外は燃えるような夕焼け。
鷲子が頼りない足取りで窓辺に寄った。そして、戸惑うように窓を開ける。
「鷲子」
呼びかけると、振り返った鷲子は目を見開いて動揺していた。
「雨は降ってる?」
「……いいえ」
私たちは同じ夕焼けに照らされて、騒がしい雨戸の閉まる音を聞いていた。
どういう悪ふざけだろうか。
その時、隣の部屋から睦子の悲鳴が轟いた。
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