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1 春の金糸雀
「さてさてお立合い! 今年、我らが〈歌姫〉に選ばれたのは──」
石墻女学院名物、合唱団・金糸雀倶楽部の入団審査及び階級査定の結果が発表された。校庭に築かれた壇上で、《黄水晶》こと福室伊鈴がわら半紙を叩く。
「3年、淵崎鷲子さん! 壇上へどうぞ!!」
「……」
群の中からおずおずと進む小柄な女学生。
俯いているせいで、肩につくかつかないかの髪から華奢な首が見える。
蒼白く、玻璃のように声の細い鷲子が〈歌姫〉になるとは、誰も予想できなかったはずだ。歴代の美声とは全く毛色が違う。
それに見るからに血の気の足りない鷲子が金糸雀倶楽部の活動をこなせるのか、不安が募るだろう。
「ささっ、こちらへ!」
4年の伊鈴と並んでも、たった1才しか違わないとは信じられない。
かといって、14才という実際の年よりもっと幼く見えるわけでもないが。
「よろしく、鷲子さん! 誕生月を教えてください!」
「……です……」
「6月ですね? ……今年の〈歌姫〉は《真珠》! 今年の活動色は美しい純白です!!」
拍手喝采。
鷲子は戸惑いと緊張で、今にも卒倒しそうになっている。
だったら、審査など受けなければよかったのに。
「ではでは続きまして、〈歌姫〉の〈騎士〉を発表いたします! 4年、鎔弦瑠さん!!」
「……」
歓声が上がった。
私は、ひとつ息をついて歩き出した。
「弦瑠さんは今年の編入生でいらっしゃいます! 甘く嗄れたような大人びた美声の弦瑠さん、可憐な〈歌姫〉にはお似合いの〈騎士〉です! 弦瑠さん、弦瑠さん。ささっ、こちらへ!!」
「きゃぁーッ! 弦瑠さまぁーッ!!」
「なんと、もう親衛隊がいらっしゃるご様子! おお、これは期待できますね! 〈騎士〉の座を譲る甲斐があるというものです! 弦瑠さんに、譲る……いやっ、いやはや、これは失敬!」
ひょうきんな伊鈴と眉目秀麗な御菩薩池花を合唱団の貌にしての昨年は、スター性が際立っていた。そこそこの重圧がかかるものの、怯む理由はない。
「よろしく。精一杯、精進いたします」
「弦瑠さんは確か1月でしたね……なので《柘榴石》!! おおお! 今年は紅白の夫婦組となりました!!」
伊鈴越しに鷲子を見遣ると、直前までこちらを見ていたらしい目が爪先に逃げた。あれの面倒を1年見るのか。
「この他の新しい団員は、5年中佐玉枝さん、4年菊地万千さん、4年幾井伽怜さんです! そして卒業生を除いたお馴染の顔ぶれで活動して参ります! 皆々様、何卒、本年も金糸雀倶楽部をよろしくお願い奉ります!!」
こうして春の一大行事は幕を閉じた。
輝かしい希望と、生命の煌めきを、真昼の空に撒き散らして。
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