改訂版『虹の橋を渡るまで』

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
◇◇◇◇◇ 今日の朝早く…うちで飼っている 猫のミーくんが、死んでしまった。 「しんぞうの病気だったのよ」 少し目が赤くなったお母さんが、鼻声で教えてくれた。 「死んじゃったらミーくんはどうなるの?」 まだ10歳のぼくには、死ぬということが どういうことかがよく分からなかった。 …それでも。 冷たくなって 動かなくなってしまった ミーくんを目の前にして…   ぼくは悲しくて、いっぱい いっぱい涙が出て止まらなかった。 それから だんだんぼくは… 悲しいよりも、死んでしまったら… ミーくんが、どうなるのかが気になって ぼくは、お母さんの右腕に「ギュッ」って しがみついて聞いてみた。 「虹の橋が現れて、その橋の向こうから 『お迎えさん』がくるのよ。だから、きっと大丈夫」 ぼくの頭を優しく撫でながら… お母さんは、小さなぼくにも わかるように教えてくれた。 でも、ミーくんはすっごく怖がりだったから… 虹の橋の向こうから お迎えさんが来ても…怖がっちゃって、 ついて行かないかもしれない。 それに… 誰が、迎えに来るんだろう? やっぱり猫だから… 猫さんのお迎えが来るのかなぁ~? ミーくんは、猫なのに猫見知りがひどかったから… 猫だと、もっと心配だよ……。 もしかしたら、ぼくのおばあちゃんかな? でも…おばあちゃんは 猫アレルギーだったから きっと、猫なんてお迎えに来ないよね。 ✧✧✧✧✧ ぼくは、心配で…心配で その夜は、なかなか眠れなくて 窓からお星さまにお願いをした。 「お星さまお願いです。ミーくんが、 虹の橋を渡るまで、ぼくを一緒に行かせてください」 ぼくは、何度も何度もくりかえしてお願いをした。 きっと、今ごろミーくんは すごく怖がって、またどこかで 泣いているんじゃないかと思うと… ぼくは、悲しくなってきて ぽろぽろと目から涙がこぼれてきた。 その時だった。 目の前が、すごく明るくなって… ぼくは、まぶしくて目を開けていられなくなった。 「あなたの願いをかなえてあげましょう。 心のやさしい人間の男の子さん♡」 とても優しそうな女の人の声がしたので… ゆっくりと目を開けて見たら ぼくの目の前には、キラキラと光る 白い大きな羽の生えた女の人が立っていた。 「ぼくのお願いをかなえてくれるの? 本当に?」 ぼくが、聞いたら 女の人は優しくうなずいていた。 「あなたが、思っている通り…ミーくんは、 まだこのお家の中で、怖がって前に進めないでいるんです」 女の人の横には、猫の『お迎えさん』が ちょこんと座って、ぼくの方をじっと見ていた。 ぼくがニッコリ笑っておじぎをすると… 頭をかきながら、猫さんもおじぎをしていた。 「あいつったらにゃ~! オイラの顔を見るにゃり 押し入れの中に逃げ込んでしまってにゃ、 出てこにゃいから! オイラ困ってたんだにゃ~」 『お迎えさん』の猫さんが、ミーくんの 生き別れたお兄さん猫さんだということを ぼくにわかりやすく女の人が話してくれた。 そしてお兄さん猫は、生まれて半年で 病気で死んでしまった後、虹の橋の向こうの世界で 大きくなったんだと、ぼくに話してくれた。 すると、女の人がクスクスと 笑いながらぼくの耳元で言ったんだ。 「ミーくんが、何を言っても押し入れから 出て来ないから…お兄さん猫は困り果てて、 私に助けて下さいってお願いしていたのよ(笑)」 それを聞いて、ぼくも少し笑ってしまった。 兄弟なのにね…(笑) お迎えに来て拒否られるなんて… お兄さん猫はそれはそれはショックだったろうな… 「ハルくん。私は、もう帰らないといけません。 お兄さん猫は一緒にいるので、一緒にミーくんを 虹の橋まで連れて行ってあげて下さいね♪」 そして女の人は、ぼくのおでこに そっとキスをしてから「すぅ~」っと消えてしまった。 ✧✧✧✧✧✧ そして、ぼくはミーくんが 立てこもっている押し入れに向かった。 「ミーくん。聞こえる? ねぇ。ぼくだよ… ハルだよ…こわくないから、出ておいでよ」 ぼくは出来るだけ小さな声で、優しく いつものようにミーくんに話しかけた。 「…ハル? 本当に? …ハルにゃの?」 ミーくんの不安そうな声が 聞こえたのと同時に、押入れの戸が少し開いた。 「本当だよ。ほら、出て来てよミーくん。 ぼくが、虹の橋まで連れて行ってあげるからさ♪」 ぼくは、そうっとミーくんに右手を差し出した。 「こ、こ、怖いにゃ…ぼ、ぼ、ぼくは… どこにも行きたくにゃい。ハルとここにいたいにゃ~!」 半分体をにゅっと押入れから出して、 ミーくんは、泣きながらぼくに抱きついてきた。 「ぼくも一緒にいたいよ…お別れなんてやだよ。 でもね…お母さんが言ってたんだ…。死んじゃったら、 虹の橋を渡って、みんながしあわせでいられる 世界へ帰らなくちゃいけないんだって。だから、 ぼくが虹の橋まで一緒に行ってあげるから…泣かないでよ」 ぼくは、ミーくんの頭を 優しくなでながら涙を必死にこらえた。 ぼくとミーくんを見ていて 悲しくなってしまったお兄さん猫が、 横でおいおいと涙を流して泣いていた。 「オイラは、お前の兄ちゃんにゃんだぜ。 これからは、オイラがずっと一緒にゃ。 いつかハルがこっちへ来るまで、オイラが 面倒見てやるからにゃ。怖がらにゃいでくれよにゃ」 鼻をグスグス言わせながら お兄さん猫は、ミーくんに言った。 ミーくんは、それでもお兄さん猫は怖いらしくて… ビクビクしながら押入れから出て来た。 「虹の橋ってどこにあるんだろう?  遠いの? 歩いて行くんだよね?」 ぼくが、お兄さん猫に聞くと お兄さん猫は少し笑って、窓の外を指差していた。 「外を見てみろにゃ! 虹の橋はそこにあるにゃ!」 窓の外を見ると、そこには見たこともない 大きくてすごく綺麗な虹の橋が出ていた。 「すっごく大きな虹の橋だ! あれを渡ればいいんだね。 ミーくん♪ あそこまで、ぼくも一緒に行くよ」 ぼくとミーくんとお兄さん猫は 外へ出て、その大きな虹に向かって歩いた。 でも、歩き始めると… 他にもたくさん虹の橋を渡るために 歩いてる人や、猫や犬や鳥なんかもいる。 ミーくんは、怖くてこらえきれなくなったみたいで 立ち止まってしまって怖がってしゃがみ込んでしまった。 「こ、こ、こ、怖いにゃ~…やっぱり無理にゃ~」 「頑張ろうよ! みんなミーくんと同じで 虹の橋の向こうへ帰るんだよ! 誰もいじめたりしないよ」 ぼくは、怖がって泣いているミーくんの 背中をなでながら優しく抱き起こした。 「ぼくもいつかミーくんと同じように 虹の橋を渡らなくちゃいけないよね? その時は ミーくんに迎えに来てもらいたいな… お兄さん猫と一緒で良いからさ♪」 涙をこらえてぼくは、ミーくんにお願いしていた。 「だからね。この道をしっかりとミーくんに おぼえておいてほしいんだ。ぼくのためにね♪(笑)」 ミーくんは、ぼくの顔を見上げて泣きながら笑った。 「わかったにゃん…ぼく頑張るにゃ。ハルのために この道を忘れにゃいようにしっかり歩くにゃ!」 そのあとは、立ち止まってしゃがみ込むことも無く ミーくんはしっかりと前を向いて歩き出した。 「やっぱオイラの弟だにゃ! 誰かのためにゃら頑張れるんにゃ!」 お兄さん猫は、ミーくんとぼくを見ながら 嬉しそうに笑っていた。 そして…虹の橋の入り口までたどり着いた。 「ハル! お前はここまでにゃ。 ここでオイラたちとお別れだにゃ…」 少し、さみしそうにお兄さん猫は言った。 「そうなんだね。ここが虹の橋の入り口だね。 ここからは、ぼくはもう行けないんだね。 お兄さん、ミーくんをよろしくお願いします」 ぼくは、お兄さん猫に頭を下げて ミーくんのことをお願いした。 でも、ミーくんはぼくに抱きついて なかなか離れてくれなかった。 「ミーくん泣かないで…少しの間なんだ。 ずっとお別れするんじゃないからね。 きっと、またいつか会えるんだってさ♪」 ぼくもそう言いながらも、もう涙で ミーくんの顔が良く見えなくなっていたけど… ミーくんの頭を優しくなでてやっていた。 すると、お兄さん猫がぼくとミーくんの手首に 真っ白なきれいなリボンをむすんでくれた。 「これはにゃ、約束のしるしにゃ。これでハルが もしおじいさんににゃってから死んでも大丈夫。 ミーくんは、ハルを迎えに行けるんにゃ!」 お兄さん猫は、ミーくんにシッポを差しのべて  シッポにつかまれと言っていた。 「ハル…ありがとうにゃ… 本当にいっぱい…いっぱいありがとうにゃ」 ミーくんは、涙でグチャグチャになった顔で ぼくにギュ~っと抱きついて、泣きながら言った。 「ぼくも…ぼくもいっぱい…いっぱい ありがとう…絶対…また、いつか会おうね♡」 そう言ってぼくは、いっぱいご飯と おやつの入った大きなカバンをミーくんに渡した。 「大きな虹の橋だからさ、きっと途中で お腹が空いちゃうから…お腹が空くとすぐに ミーくんは、泣いちゃうからね(笑)」 目からこぼれてくる涙を拭きながら ぼくはミーくんのために笑顔を見せた。 「また、いつか会える日まで…さよならだね」 最後は、みんな一緒に笑ってお別れをした。 そして、気が付くと虹の橋は無くなっていて… ぼくは、ぼくの部屋へ帰っていた。 「夢…だったのかな?」 ぼくは、その時はもしかしたら あれは夢だったのかもしれないと思っていた。 ✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧ そして… あれから何十年も月日が流れて… 私は、すっかりおじいさんになってしまった。 ここは、病院のベッドで… どうやら私は、もうすぐ死んでしまうみたいだった。 私は、眠くて眠くて仕方なくなってしまって… 目を閉じて少し眠ってしまった。 「ハル〰♪ お迎えに来たにゃん♡」 耳元で懐かしい声がした。 そして、私が目をさますと… そこには、ミーくんとお兄さん猫がいた。 「やっぱりあれは夢じゃなかったんだね♡」 そう言って…私は、手首のリボンを見た。 「そうにゃ! あれは夢にゃんかじゃにゃい… ぼくは、ずっとハルを待っていたんだにゃ~!」 ミーくんは、そう言って 自分の手首のリボンを私に見せてくれた。 「さぁ! 行くにゃ! ハル。虹の橋を渡るにゃん。 今度は、ぼくと兄さんと一緒ににゃ♪」 そして… 私は、ミーくんたちと虹の橋を渡って また向こうの世界で幸せに暮らしたんだ。 【おしまい🐾】  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!