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おばあさんに導かれてお館の中へと足を踏み入れる。
大きなつづら折りの階段が二階の少しせり出している廊下から、シャンデリアで虹色に照らされた広いエントランスへと続いている。
エントランスの奥、二階のせり出した廊下の真下にある扉は観音開きになっていて、その奥の部屋には、絵本で見た外国のおうちのテーブルみたいに、キラキラと銀色に輝く三段重ねのアフタヌーンティーセットが置かれているのが見えた。
おばあさんが、彼女の着ているワンピースとよく似た生地のスリッパを出してくれた。
「どうぞ、お上がりになって」
「おじゃまします…」
うるさいほど高鳴る心臓の音がおばあさんに聞こえてしまうんじゃないかと恥ずかしくなりながら、靴を脱いで揃えると彼女の出してくれたスリッパに足を入れた。
ふかふかの履き心地が気持ちいい。
おばあさんの後をついてアフタヌーンティーセットの置かれたテーブルのある部屋へと入ると、既にテーブルについていたおじいさんが立ち上がって右手を差し出してきた。
どうしたらよいのか考えあぐねていると、おじいさんは私の右手をそっと取り、握手をしてくれた。
「ようこそ。妻の佐智子から、かねがねお招きしたい方がいると聞いておりました。
私は各務顕と申します。こちらは娘の」
そう言って一番奥の椅子に座っている、赤いワンピースの女の子を視線で促した。だけど女の子は微笑みをたたえてお皿を見つめたまま何も言わない。
「撫子、お客様にご挨拶を」
顕さんに言われると、その子は薄っすらと笑みをたたえたまま
「なでしこ」
とつたない口調で名乗ってくれた。
娘? おじいさんとおばあさんの?
でも年は私とあまり変わらないように見える。
そう考えると、この子のお父さんとお母さんにしては、顕さんと佐智子さんは年を取り過ぎているように感じた。
女の子――撫子ちゃん――の顔をまじまじと見つめてしまい、すぐに我に返る。
「あっ、私は鈴井カノンです」
失礼なことをしてしまった。
慌てて名乗ると、顕さんは椅子を引いてくれながら
「カノンさんか。良い名前だね。漢字はどう書くの?」
と訊いてくれた。
「夏の音、って書きます。夏の、蝉の声がうるさい時間に産まれたからって、ママが言っていました」
そう答えると、顕さんは楽しそうに目を細めて笑った。
「そうか、蝉の声が名前の由来なのか。ユニークなお母さんだね」
「ありがとうございます」
よくわからなかったけど、褒められている気がしたからお礼を言って、顕さんが引いてくれた椅子に腰かけた。
腰かけるとすぐに佐智子さんがお茶をサーブしてくれた。
大きなブルーのティーポットからストロベリー柄の華奢なカップに注がれるお茶は、お花みたいなすごく良い香りがした。
佐智子さんは、撫子ちゃん、顕さん、そして最後に自分のカップにお茶を注ぎ終えると、撫子ちゃんの向かいの椅子に座った。
「それでは、新しい出会いに感謝して」
「いただきます」
顕さんのマネをして「いただきます」と手を合わせて、カップを持ち上げお茶を口に含む。
ふわり、と包み込むような優しいハーブの香りがした。
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