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第24話 誓い
外に出ると、丸い月が夜空を照らしていた。
ルーカスは冷たい空気に肩を小さく震わせながら、木の幹に手を添えた。
魔法を使おうなんて考えなくていい。
今までと同じ。ドアにおまじないをするように、森にお願いするだけ。
この森に自分たち以外の誰かが入ってきても、この場所に辿り着けないようにしてください、と。
目を閉じて、何度も心の中で繰り返し願う。
十数分ほどすると、ルーカスの願いに森が応えるように木々を揺らした。さすがにドアに向かっておまじないをするのとは規模が違う。反応が返ってくるまで随分と時間がかかったが、確かな手応えがあったことにルーカスは安堵した。
これでとりあえず大丈夫だろうと息を吐くと、後ろから抱きしめられてルーカスは小さく声を上げた。
「ヴァ、イスさん!?」
「急に居なくなるな」
「ごめんなさい。起こすのも悪いと思って……」
暫く起きないと思っていたのに、まさかこんな早く目を覚ますなんて、とルーカスは驚いた。
これが獣人の回復力。完全に体力を取り戻したわけではなさそうだが、起き上がれるほど回復していることにただただ感心するばかりだ。
「起きて大丈夫ですか?」
「平気じゃない。だから、早く戻るぞ」
「は、はい。僕の方も丁度終わったところなので」
「もしかして、俺が頼んだ……」
「はい。人払いの魔法です。魔法というか、僕的にはいつものおまじないみたいな感じなんですけど、でもちゃんと森が応えてくれたので大丈夫だと思いますよ」
「そんな急ぐことなかっただろ」
「でも、ご主人様が目を覚ましてすぐに僕たちを探し始めていたら大変ですから」
「あの様子じゃ朝まで起きないだろ」
ヴァイスは肩を竦めながら言った。
かなり強めに体を打っていた。目を覚ましたとしても、すぐには動けまいとヴァイスは付け加えた。
主人は屋敷に一人暮らしで家族はいないと以前話していたことをルーカスは思い出す。何の仕事をしているのかなど聞いたことがないので、他のことは分からないが彼の言う通り主人の年齢や体力を考えても暫くは動けないだろうと納得する。
「ヴァイスさん。改めて、ありがとうございました」
「なんだ、急に」
「ちゃんと言ってなかったな、って……あの屋敷から、ご主人様……いえ、あの男から攫ってくれて、ありがとうございました」
「感謝されるようなことじゃない。俺がそうしたいと思ったから、そうしたんだ」
「それでも、僕は救われました。貴方と番になれました。これ以上の幸せはありません」
ルーカスはヴァイスの胸にそっと寄り添うように抱きついた。
この愛おしい時間が、いつまでも続きますようにと願いながら。
「アホ」
「……酷いです」
「この程度で満足するな。お前の幸せは、これからも続くんだぞ」
「……ヴァイスさん」
ヴァイスは優しく撫でるように、ルーカスの頬を持ち上げた。
流れるように、そうなることが当然のように、ルーカスは目を閉じる。
月明かりの下。まるで誓い合うように、口付けを交わした。
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