微妙なラインの嫌いな食べ物

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 普段温厚な奴が怒る時ってどんな時だと思う? 人権を侵害された時、もまあそうだけどもっと根本的なところだ。そう、欲求や本能を邪魔された時だ。  寝てたのに無理やり起こされた時、お腹が空いてるのに「どこからでも切れます」がうまく切れない時、ちなみにこの時は自分が切れる。くしゃみをしようとしてふあ、ふあ、を繰り返していたのに突然スッと消えた時。  俺は断然、嫌いなものを食べてしまった時だ。  料理として出された時、じゃない。安全地帯だと油断して食べたら嫌いな物が入っていた時にブチ切れる。 「よけて食べろよ」 「見た目じゃわからん」  ミルクティーを飲んでいる友人に突っ込まれ、俺はぼやく。 「例えば人参が嫌い、青魚が嫌い、肉が嫌い。これなんて避けられるじゃん。違うんだよ、俺が嫌いな物ってだいたい見た目じゃわからねえんだよ」 「そういやファミレスとか行ってもコレ嫌い、みたいな話出ねえな。好き嫌いないのかと思ってた」 「世の中の嫌いな食べ物ランキングに入ってそうなもんはだいたい好きだよ。野菜全般大好き、ちなみに一番好きな野菜トマトな。肉好き、魚好き、レバー美味い、納豆はもう365日食べてる、納豆がなくなったら死ぬ」 「栄養満点なもん好きだな、良い事だ。何が嫌いなんだよ」 「長くなるが聞いてくれ」 「えー」 「聞けよ、語りたいから。あんま他人に理解されねえんだよ」 「はいはい」  俺がドーナツ屋で新作ドーナツ買った時な。あんまり甘い物好きじゃないんだが、その時は友達と一緒だったし新作がちょっと美味しそうだったんだよ。食べた瞬間絶望だよ、騙された。なんてこった、ドーナツ茶色いから気づかなかった、潜んでやがった。 「絶対入ってる」  顔を顰めて言うと、一緒に居た友達が一口食べて「嘘だ、全然味しないって」と言っていたが絶対入ってる。テーブルに置かれた新作アピールの広告をわしづかみにして文面読んだら書いてやがったんだ。 ”濃厚なミルククリームと甘く煮詰めたリンゴの果肉、仕上げにシナモンでさっぱりした香りづけをしました!” 「まぶすなよ! 濃厚なミルククリーム台無しだよ! なにアップルパイっぽく仕上げてやがんだアップルパイじゃねえんだよドーナツだよ!」  俺の叫びにああ、と納得したようだ。 「シナモン嫌いなのか」 「考えてみろよ、濃厚なミルククリームとリンゴの果肉、仕上げに毒をかけておきましたって書かれてた時の俺の気持ち!」 「シナモンは毒じゃねえよ。じゃあもしかしてアレか、チャイとかダメか」 「インド人経営のカレー屋行って“インド式紅茶”って説明文だったからどんなもんなんだと思って頼んで飲んだ時は死ぬかと思ったぜ。あのインド人殺し屋かと思った」 「インド人に謝れ」 「あとミントも同罪だ! アイスの上に乗ってると勝手に俺のアイスにミント植えるんじゃねえよって店員に説教してえよ!」 「ミントは添えてるんであって植えてねえだろ」
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