こちらあの世お迎え課迷子係

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 この春、俺は閻魔庁に就職した。鬼といえども働かなければ食っていけない世知辛い世の中。  閻魔庁という公職に就け、この先安泰だと思っていたのも束の間、配属先はまさかのお迎え課迷子係だった。  お迎え課は死者の魂を管理し、あの世まで連れて来るのが仕事だ。  寿命で死んだ者はすんなり昇ってくるがそういう者ばかりではない。  事故や災害、突然の不慮の死で自分が死んだことにも気付かないで彷徨っている人間の魂を現世に向かい捕まえる。  これが迷子係の仕事だったが、閻魔庁の中でも一、二を争う不人気部署だ。  なぜなら…… 「お、結構捕れているな。お前筋がいいじゃねぇか!」 「ははっ……どうも……」  汗を拭きながら俺のかごの中を見た係長が弾んだ声を上げるが、乾いた笑いしか出なかった。  迷子係は仕事中、虫かごを肩から掛け虫取り網を手に人魂を追いかける。  人魂は追って来る俺達鬼に本能的に逃げるので、毎回汗だくになりながら捕まえなければならない。そのせいで服装は年中、Tシャツ・短パンに運動靴。  まるで夏休みの子供のような格好では女性社員にモテるはずもない。  更に現世に下りてばかりで庁内にいないので接点も出来にくい。その為、多くの若手男性社員からは嫌厭されている。 「すっげ~! 麻幹(おがら)は人魂捕りの天才だな!  俺なんて二つしか捕れなかった!」 「そりゃあれだけ騒いで追いかけてればな。逆によく二つも捕れたな」  同期の笹竹(ささだけ)は無邪気にかごの中を覗き込んで歓声を上げている。小鬼の容姿も相まって本当の子供にしか見えない。  こいつみたいに子供のまま大人になった奴にとっては天職だろうが俺は違う。  衆合(しゅごう)地獄勤務の可愛い鬼女と仲良くなりたいのに、このままでは夢のまた夢だ。  なんでこんなことになったのかと、ここに配属されてからはため息しか出ない。思い出すのは採用面接の時のことだ。  あの時、体力に自信があるなんて言わなければ……  更に虫捕りは得意かと聞かれた時に、子供の頃はよく虫捕りをしていたなんて言わなければっ!  俺を見つめる面接官の目は、被害妄想かもしれないがいいカモが来たと嫌らしく笑っていたような気がする。
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