16人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃ、ここいらの迷子は全て回収したし閻魔庁に戻るか!」
他のメンバーが回収した人魂と回収予定者リストを確認した係長が満足気に言った。ようやく今日の仕事が終わったと息を吐く。
現世から撤収しようとした時だった。
「そこの人魂待ちなさい!」
頭上を紫色の閃光が走ったかと思うと、後を追うようにバイクが空を駆け抜ける。
興味を惹かれた俺は思わず後を追っていた。
木陰から様子を伺うと別のバイクが前から回り込み、近くの草原に先程の紫色の人魂を追い詰めていた。
囲まれ、逃げ道が無くなった人魂が膨張したかと思うと鞭のような物を伸ばし彼らを襲った。しかし彼らは冷静に避けると光線銃をぶっ放す。
光線を浴び動かなくなった人魂を、彼らは檻の中に捕縛すると立ち去ってしまった。
俺は見たものの衝撃からしばらく動けなかった。
「さっきのはなに~?」
「ありゃあ、強行犯係だな」
いつの間に隣にいたのか、同じように見ていた笹竹の問いに係長が答えた。
「殺人、強盗、傷害、暴行……凶悪犯罪を犯した死者ってえのもすんなりあの世にはこねぇんだ。地獄に送られるのが分かっているから、逃げて現世に留まり続ける。しまいにゃ生者にちょっかいをかけ、呪い殺したりする悪霊になる。それを探し出して捕らえるのが強行犯係だ」
「へぇ、人魂でもそんな力を持つんだ~」
「力があるものは魂の色が変わる。黒に近い色を持つほど強力だ。ああいった手合いは悪知恵だけは働くからなぁ。こそこそ隠れて力を蓄えるんだ」
吐き捨てるように係長は言う。だが俺にはそれよりも気になることがあった。
「強行犯係も、お迎え課なんですか?」
「そうだぞ。あそこは課の中でもエリート集団だ」
同じお迎え課でもそんな部隊があるとは知らなかった。出退勤の時しか庁内にいないから他部署の話はなかなか入ってこないのだ。
エリート集団、なんて甘美な響きなんだろう。それに夜空をバイクで颯爽と駆け回るカッコ良さ、あれこそが俺が求めていたものだ。
「係長! 俺、強行犯係に転属したいです!」
逸る気持ちそのままに係長に告げるが「無理無理」とあっさり言われてしまう。
「なんでですか!?」
「言ったろ、あそこはエリートだ。捕縛用の道具は専用で厳しい訓練があるし、人魂も迷子と違い力を持っていてさっきみたいに攻撃もしてくるんだぞ」
「そんなの平気です!」
「それに国を越えて来た犯罪者の人魂を海外のチームと合同で捕まえることもあるから、最低でも三カ国語は話せなきゃなんねぇ。お前さんに出来るか?」
「……無理です」
頭の出来を持ち出されては引き下がるほかない。
肩を叩かれ「ま、気落ちすんな! 迷子係も治安を維持する重要部署だ。お前さんには才能があるんだから迷子係で頑張ってくれや」と励まされたが、沈んだ気持ちが浮上することはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!