一章 インスタント

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一章 インスタント

不自然に布が擦れる音がして目が覚める。 「静かにしてよね……」 スマホのホームボタンを押すと画面にはいつもの起床時間より五分早い時間を示していた。 「最悪……」 寝返りを打って二度寝をしようとしたところ、部屋の異変に気付いた。誰かが壁にもたれて寝ている。男の人が刀を肩に倒れさすように抱えて静かな寝息を立てていた。 高い鼻梁に薄く形のいいくちびる。艶やかな黒髪が肩に流れていた。 歳は二十代後半ぐらい?  ぼろぼろの袴には枯れ葉が付いていて草履は真っ黒。 よく見ると顔には酸化して赤黒くなった血がついている。 昨日の夜、玄関の鍵は閉めたはずだ。それにこんな武士のような恰好……。 三日前に見た映画のせいでこの夢を見てるに違いない。反対方向に寝返りを打って目を瞑ることにした。
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