三章 苺タルト

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 十数個の星が眼前に広がる。 秋も近いのだろう、日中は暑かったが、夜になった今はそよ風が心地よい温度まで下がってきていた。  お店行く前に公園に寄らないかと沙理に言われ、何か少し悪いことをしているような感覚を感じながらも嬉嬉として了承した。  沙理と私は近くの公園のタイヤの遊具に腰掛ける。  私の家で皆んなで食事を取り、食後のアイスを買ってくる係として沙理と一緒に家を出た。高校生の頃、夜の七時半に家を出てコンビニに行くだけでも、不安と期待とが混ざり合ってドキドキしていたのを思い出す。 「どうしたの?」 「え?」  いつもの沙理からは想像できないほど真剣に聞かれた言葉に目を見開く。 今日一日、平静を装っていたつもりだったが暗くなってしまっていただろうか。 「今日朝からおかしかった。話したくないならいいけど」  心配しながらも、望まないなら深入りはしない。そんな沙理の接し方が好きだ。 「……通政さんとちょっと喧嘩しちゃって。元々違う世界の人だったけど、届かない所まで変わっちゃった」  詳細までは話したくない。口に出すことで保っていた何かが決壊しそうな気がしたから。 「そっか……」 「ごめんね。でも大丈夫だから」  立ち上がってズボンに着いた土埃を払う。 「通政さんも人だよ」 「どういうこと?」  そんなことはわかっている。沙理の意図がわからなかった。 「幕末の武士だし、ここでモデルにもなった。でも、中身は今生きてる私たちと同じだよ」 「……」  通政さんは硬派で冷静に物事を判断する。現代の私達なんかよりもよっぽど大人で聡い。 私が通政さんに思い抱いていたイメージだ。でも、それは私が今まで読んだ本や見たテレビや映画の『武士』に対して抱いていたイメージと酷似している。彼は現代の同い年と同じ葛藤を抱えて、虚勢を張ることもあるのかもしれない。  私は色眼鏡をかけて彼を見て、そこから外れないように彼を抑制していた。 「通政さんと話すよ。通政さんとして」 「うん」  沙理も立ち上がると、夜空に向かって大きく体を伸ばした。私の方に振り向くと右の口の端を上げる。 「通政さんとして見ると、ただのイケメンだけどね」 「それはあるね」  私も悪い笑みを作り沙理に向けた。  
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