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「「「「かんぱーい!」」」」
高級焼肉屋を一棟丸ごと貸し切って乾杯の音頭をとっていた。
俺も控えめに言って近くの人とグラスを合わせる。
長いテーブルの短辺の特等席に一人で座る男がジョッキを飲み干していた。あれが今日の長か。目立たないように過ごして頃合いを見て帰ろう。
椿の寝顔だけ見るのもそろそろ限界だ。あの綺麗な肌、くちびるに触れたい。俺の手で彼女をぐずぐずに蕩けさせたい。
「おっ! ミッチーも来てんじゃん」
またコイツか。コイツとは何度も飲みの席で一緒になったからわかる。酒に弱い。コイツと適当に話して潰れたタイミングで姿を消そう。
「佐久間くん」
小声で呼ばれて振り返るとマネージャーが俺に耳打ちをしてきた。
「美粧の部長が話さなないかって。行ってきて」
美粧は最近メンズ用スキンケアの商品が人気の化粧品会社だ。今日撮影前に付けられたオイルもその会社だったっけか。マネージャーが目配せをしてその男の居場所を告げる。目線を辿ると今日の長が座っている席だった。
「行ってくる」
席を立つ俺を支えにしてアイドルもどきが立った。
「俺も行く!」
「えっ、ああ、うん。行ってきて」
マネージャーは戸惑いながらもすぐに二人の背中を押す。
同じ事務所の奴が行くんだ、どちらかが嫌われてもどちらかが好かれれば事務所の利益になる。当たり前の行動だろう。
俺にとっても好都合だ。コイツは上昇志向が強い。きっと俺の代わりに愛想を振りまいてくれる。
「初めまして、佐久間通政と申します。挨拶が遅れて申し訳ありません」
「いいよ、気にしないで。さっここ座って」
「俺もー」
男の右に俺が座り、左にはアイドルもどきが座る。アイドルもどきが酌をするのを烏龍茶を飲みながら見ていた。
「おーとっと、あれ、通政君は飲めないのかい?」
「そうで「こいつビール飲めないんですよ」
アイドルもどきは『こいつ炭酸が無理らしくてー』と男に説明する。お前に聞いてないだろうと心の中で悪態をつきながらも、誤魔化した後に事実をバラされないでよかったと安心する。
「じゃあ好きなお酒飲んだらいいよ。ちょっと」
男は部屋の隅で待機していた店員に声をかける。頼むしかなくなった。
「おすすめの日本酒を」
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