三章 苺タルト

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「……ということがあって、椿にあんなことを言ってしまった」 「……そうだったんですね……」  いろんな感情が交差して、なんといえばいいかわからなかった。 「嫌な気にさせてしまったな。すまない」 「いえ……」 「俺はお前だけだ。信じてくれ」  通政さんにきつく抱きしめられる。抱きしめなおされる度に私の存在を確認されているような感覚になる。 「わかりました……」 「キス、してもいいか?」 「……はい」  彼は大きな手で私の両頬を包んだ。通政さんのくちびるが私のくちびるにそっと触れる。 この二日間、何もしないでずっとここにいたのだろう。彼のくちびるは酷く乾燥していた。  ゆっくりと目を開けると、彼は何かを耐えているかのように苦しげに目を伏せていた。 「どうし、たん、ですか?」 「いや、何でもない」  彼は無理やり笑ってみせる。本当に演技が下手な人。彼の様子も気になったが、今は彼の体調の方が気がかりだった。
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