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フユカの眉が吊り上がっていく。だが、俺の言葉は止まらない。怨念が籠った呪いの言葉は次々と口から飛び出す。
「俺は死にたかったんだ! 本当に余計なことをしてくれたな、お前は! こうなるなら、最初から公衆の前でも構わずに高所から飛び降りるべきだったよ!」
自由に死なせてもくれないのか。そう思い、俺はさらに言葉を重ねようと口を開きかけた。だが、その口から言葉が発されることはなかった。
フユカが、目に涙を浮かべながら詰め寄ってきたからだ。
「ふざけるな、だって? それはこっちのセリフだよ! その命は兄さんだけの物じゃないし、簡単に投げ出せるような軽いオモチャでもないんだ! 兄さん1人の死で、どれだけの人が悲しむのか分かってるの!?」
胸ぐらを掴み、聞いたことのない怒声を上げるフユカを見て、俺の怒りもまたボルテージが上がった。
「こうして生を授かったのは他でもない俺自身だ! その命をどうするかなんて本人が決めることだろうが!」
「また勝手なことを……!」
「生きる意味も、希望も、生き甲斐も、俺は全部失ったんだ! これ以上生きる意味も見出せないんだよ! それとも、お前なら出来るのか? 大切な人を失っても普通に生きられるって言うのか? お互いが壊れるぐらいに愛した人が唐突に死んで、それでも生きられるのかよ!」
ここまで捲し立てて息を切らした。首を吊った弊害だろうか。呼吸が上手くいかない。
フユカは呆然として、俺にポツリと言葉を投げかけた。
「死んだの? アキさんが?」
「ああ、そうだよ。死んだんだ。もうこの世には居ない。俺の愛した人は、もう死んじまった」
「アキさんの分まで生きようとは思わないの? アキさんは兄さんが死ぬことを望みは……」
「約束したんだよ。死ぬ時は一緒だって。後を追うってな」
絶句、と言うのは今の義妹のような状態のことを指すのだろう。パクパクと口を動かして、しかし考えが纏まらないのだろう。その姿はどこか滑稽であった。
俺とアキは、命に対しての関心がとても薄かった。長生きしたいとは思わなかったし、何なら40歳ぐらいで死んでしまいたいとすら考えていた。
付き合い始めてそれなりに時間が経過した俺たちは、ある約束を交わした。
なに、約束と言っても簡単なことだ。俺かアキ。どっちかが先に死んだら後を追いかける。それだけである。
「俺が死にたいのは約束を守るためでもある。だけどな、それ以上に、もう……」
「兄さん……」
「お前なら分かるだろ? 俺がどれだけあいつを大切にしていたのかも、心の繋がりが深かったことも。だから俺は死ぬんだ。アキの居ないこの世界で、もう生きる気力もないんだよ」
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