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「一ノ瀬くん、ちょっといい?」  放課後の渡り廊下で、昼休みの学食で、朝の駅や帰りに立ち寄るバーガーショップで翔真は度々、呼び止められた。  相手は他校の上級生や同学年、下級生と色々だったが、共通してるのは全員女子だということ。  そして翔真は声を掛けられるたび、無愛想を通り越して、露骨に迷惑そうに眉を上げて「何か用?」と口の中で呟く。 「ちょっとお話してもいいかな」  勇気のある女の子なら、怯むことなくさらに一歩踏み込んで翔真を呼び出そうとする。  でも翔真はたいてい、 「急いでるから」 と、相手の用件さえ聞かずに遮ってしまう。 「いいのか? 泣きそうだったぞ」  晃が気を遣うと、それはそれで癇に触るらしく、 「興味ないのに話だけ聞いて、結局断るほうがいいのかよ」 と口を尖らせる。 「そうじゃないけど、翔真のこと誤解されそうでひやひやすんだよ」 「誤解?」 「ほんとは優しいとこもあるのに……」  ぶっきらぼうに振舞って、翔真がイヤな奴だと思われるのが残念なのだ。    晃が口ごもると、翔真は表情を和らげ、 「本当のオレの事は晃が知ってるんだから、それでいい」  本当の翔真、というのが初めて会ったころの幼い翔真のことだというのなら、晃は複雑な気分だった。 「もっと友達作った方がいいよ、翔真」  なんどこの話をしても、翔真にはわからないらしかった。  つまらなさそうに視線を泳がせ、話題が他へ移るのを待っている。  声を掛けてくる相手を震え上がらせるほど冷ややかな表情をすることもある翔真なのに、小石を蹴とばす小学生みたいなその態度は同級生とは思えないほど子供っぽい。 「もう行こうぜ、晃。オレ、コンビニ寄りたい」 「お菓子ばっか買うなよ」 「センセー! バナナはおやつに含まれますか?」 「弁当箱に入っていればデザートです」  なんだよ、それ。    屈託なく翔真が笑うから、晃はいつもなんとなく流されて、この話題は収束してしまう。  
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