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昇降口を入った突き当りの廊下の掲示板に先週の実力テストの点数と順位が貼りだされていた。
「あ、順位出たんだ」
人だかりの後ろから背のびしても、小柄な晃からはなにも見えない。
まあ、見たところで学年で50位までの順位しか貼りだされないので、無縁といえばそうなのだけど。
毎回余裕で一位総ナメの翔真は掲示板を一瞥して、通り過ぎた。
「翔真は選び放題だな、大学」
羨ましさや妬ましさなど、翔真に関してはとうに解脱している晃がなにげなく呟いた言葉に、翔真は足を止めた。
「……え?」
「なにびっくりしてんだよ、進学するんだろ?」
「晃は? 進路もう決めてるのか?」
「さすがにまだだけど……うん、そうだなぁ。目指してるとこは一応ある」
「そか、じゃあ、オレもそこにする」
晃は耳を疑った。
「ダメだよ、なにが『じゃあ』だよ」
「え、なんで?」
「将来のことはちゃんと考えろ、翔真ならもっと偏差値高いとこだって狙えるだろ」
「あきら?」
不安そうな表情の翔真に、晃は余計に腹が立った。
「そんな進路の決め方、ダメだからな、絶対」
滅多にない晃の剣幕に、翔真はなす術なく立ち尽くしている。
「なんで怒ってるんだよ」
背中を向け、さっさと歩き出した晃のあとをトボトボと追ってきながら、翔真の声は戸惑って揺れている。
「考えろ、頭いいんだから」
晃の教室は1-A、翔真は1-D。
教室のわかれる廊下の突き当りについても、晃はいつものように「昼休みにな」と声を掛けなかった。
振り向きもせず自分の教室へ入ってから、子犬を叱ったあとのような心苦しさを覚えないでもなかったが、今更どうしようもない。
この際、翔真にはちょっと身の振り方を考えてもらうのもいい頃合いじゃないだろうか。
一時間目の授業の準備をしながら、晃はそう考えることで落ち着きを取り戻した。
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