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 ダニーが〝嫌な父親〟だなんて、ジーンは信じられなかった。口が悪いところはあるが、彼ほど思いやりのある友人は他にいない。  ネイトが暴力を見せるようになったとき、早く別れるようにと進言してくれたのもダニーだった。拗れるようなら彼の自宅に避難するようにとまで言ってくれて、必要とあらば警察やセキュリティ会社、弁護士にも口を利いてやると請け合った。実際、別れ話は拍子抜けするほどあっさり済んでしまって、ダニーの世話になることはなかったが、あのときダニーがいてくれて、どれほど心強かったか。  ジーンにとって、ダニーは友人であり、実の父亡き今は父のように慕っている。すべての親子が円満な関係を築けるわけではないことは理解しているが、ダニーの息子はきっとろくでもない、薄情な男なのだろう。会ったこともない彼の息子のことが、ジーンは嫌いになった。 「さあ、この話は終わりだ。それよりあんたの新しい恋人の話をもっと聞かせてくれ」 「そうだね」とジーンは微笑んだ。  ジーンも、早くダニーにザックの話を聞かせたい。きっと、ダニーも彼を気に入るだろう。  *  ミッドタウンのイタリア料理店は、昼時で賑わっていた。  ニンニクとトマトソースの香りのする店内でカプリチョーザを頬張ったジーンは目を輝かせた。シチリア料理の店だが、この店はとにかくピザが美味い。  向かいに座るザックも満足そうだ。  ピザを食べに行こうと言われたとき、今日もコース料理を出すような店に連れて行かれるのではないかとドキドキしていたジーンは安心した。〝気軽な店〟が好きだというジーンのことを考慮してくれたのだろう。値段は手頃だが何年か前のミシュランにも載った人気店だ。食にさほどの興味もなければ、費やす金もないが、職業柄マンハッタンで話題の店には詳しい。おすすめの店や有名店をよく聞かれるので、情報収集は不可欠だ。 「この店にしてよかった。予約ができない店と聞いていたから、心配していたんだが」  きっとザックもホテルのフロントスタッフ辺りにおすすめの店を聞いたのだろう。  ジーン自身、何度もおすすめの店に挙げたことはあるものの、来るのは初めてだった。  美味い店だとは聞いていたが噂以上だ。  トマトソースベースに、ハムとマッシュルーム、アーティチョーク、オリーブが乗っている。とろけたモッツァレラチーズがたまらない。  焼きたてのピザは何だって美味いが、これは別格だ。つい夢中になるあまり、無言でパクパク食べてしまった。ザックが苦笑する。 「きみは美味そうに食べるな。たしかに、かしこまったレストランよりよさそうだ」  ジーンは申し訳なく思いながら、口元のトマトソースを拭った。
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