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「僕の好みに合わせてもらってありがとうございます」  遠慮がちに言ったジーンに、ザックが声を立てて笑う。 「俺もピザは好きだ。ひとりの夜は大抵デリバリーのピザだよ」  素敵にスーツを着こなしたこの男が、くたくたのスウェットシャツを着込んでデリバリーのピザを齧りながらテレビを見ているところを想像してみる。しかしどうにもうまくいかない。まず、彼の住んでいる家が想像つかない。ふたりで過ごしたプライベートな空間はどれもホテルの部屋だったし、間違ってもジーンの住むアパートメントの狭くてゴチャゴチャした部屋ではないだろう。それこそホテルの一室のような洗練されたお洒落な部屋に住んでいるに違いないが、やっぱりそこでもデリバリーのピザを齧るザックは想像がつかなかった。  ザックは「この店は大当たりだな。人気店なだけある。近所に店がないのが残念だ……」と真剣な顔で本当に残念がっているようだが、ジーンのもの言いたげな表情に気付いたのだろう。 「僕だって街を見下ろしながらレストランで食べる以外の食事をするさ。ただ……デートするとなると、しかるべき店に連れて行くべきだろう?」  ついジーンは吹き出した。  たしかに、先日のレストランはしかるべき店だろう。だが毎回デートの食事があの店では息が詰まる。それとも、これまでのザックの相手は、いつもああいった店での食事を望んだのだろうか。 「屋台飯を食いながらだって、デートできるんですよ。知らないんですか?」 「知らないわけじゃない。したことがないだけだ」 「じゃあ次のデートは屋台で食べましょう」  ジーンは満面の笑顔を浮かべながらも、緊張しながら次のデート、という言葉を口にした。
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