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「それはいい。おすすめを教えてくれ」
「〈ハラルガイズ〉は?」
ザックは笑顔で頷いた。
「そこなら僕も知ってるぞ。昔チキンオーバーライスを食べた。美味かった」
「よかった。僕も好きなんだ。次はあそこで食べましょう」
次の約束ができたことに、ジーンは安堵した。とはいえ、ザックはいつまでもニューヨークに滞在するわけではない。ホテルは明後日までの予約となっていたはず。ロサンゼルスに帰ってしまうだろう。その〝次〟が実現するのはいつだろう。一か月後だろうか。二か月後だろうか? それとも半年後? それでもジーンはいつやってくるかもわからない約束を待とうと思った。
――来月。約束だ。
一か月も前の口約束を、律儀に守ってくれたザックならば。信じてみてもいいだろう、と思った。
明後日、予定通りザックはホテルをチェックアウトした。
ロサンゼルスへは帰らず、次はワシントンDCに行くらしい。仕事のついでに、DCに住む姉のところに顔を出す予定だと言っていた。ホテルは取らずに、泊めてもらうそうだ。
ミッドタウンでランチをして以降、ふたりでゆっくり話をする機会もなく、次はいつ会えるのかと尋ねるタイミングもなかった。もっとも、聞く機会があったところで、ジーンからその話が振れたとは限らないけれども。
しかしザックが帰ってしまっていくらも経たないうちに、ザックから『次はホリデーに会いに行くよ』とメッセージがきた。ジーンは目を疑った。
先日のランチのとき、うっかり家族がいないという話をしてしまったから――さすがに、医療費で膨らんだ借金を返すために大学を辞めた、なんて話をしないだけの分別はあったけれど――きっと、そのせいではないだろうか。
ザックにはクリスマスをいっしょに過ごす家族がいるはずなのに。申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちがせめぎ合って、すぐに嬉しい気持ちの方が勝利した。
誰かと過ごすホリデーなんて、何年ぶりだろうか。
じわりじわりと胸の奥底から悦びが湧き上がってくる。あたたかい部屋の中で、寄り添い合って、シャンパンで乾杯をして、いつもより豪勢な食事をつつく。プレゼントを交換しあって……想像しただけで、幸せな気持ちになる。
とはいえ、現実にはふたりでホリデー休暇を過ごすことは叶わないだろう。クリスマス当日、ジーンは夜勤だ。
しかしそんな気分にさせてくれただけで、十分感謝に値する。
隣にザックはいないのに、ジーンはその日、はじめて彼と抱き合った夜のような、満たされた気持ちで眠りについた。
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