【本日の御予約】  乙梨寧佳  様 ①

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 摩子さんが帰ってきて、夕飯を一緒に食べることになった。  場所は事務所を兼ねた八畳の一室で、あたしと凛介が摩子さんと向き合う形で座卓を囲む。最近はこうして三人で夕飯を食べるのが恒例になっていて、家に帰って食べることの方が珍しくなっている。  ちなみに凛介が作っていたのは肉じゃがだった。  摩子さん曰く、定番の家庭料理も凛介の手にかかればお金が取れる逸品になる、らしい。さすがに大袈裟な気がしたけれど、考えてみれば実際にお客さんにも出している訳だから、摩子さんの言葉はではなくという事になる。  さらにこの日は、肉じゃがの左に大根と人参の酢の物。右には冷奴(ひややっこ)。ご飯に至っては初物の鮎を使ったという炊き込みご飯だった。  これら全てをタダで食べられるあたしは、実は物凄い得をしているのかもしれない。    なんて風に考えながら箸を進めていると、正面から何か話しかけられた。料理に夢中で何一つ耳に入ってこなかったあたしは、口の中を空にして訊き返さざるをえない。 「――はい?」 「だから今週の土曜日だよ。みちるちゃんも凛くんも、朝からずっと店に居てくれるってことで良かったよね?」 「えっと、はい。あたしは大丈夫です」 「俺も課題終わったんで大丈夫ですけど――なんだか珍しいですね? 摩子さんがそうやって確認してくるのって」  凛介はと言うけれど、あたしが摩子さんからシフトの確認をされたのは今回が初めての事だった。それはたぶん、あたしはあくまでに過ぎないからだろう。  凛介はともかく、この店はあたし抜きでも何の問題もなく回るのだから。
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