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【本日の御予約】 乙梨寧佳 様 ②
「えっ――」
摩子さんの一言は、あたしに幾つかの疑問を抱かせた。
「さっきって……、えっと。電話鳴ってない、ですよね?」
そんな中で咄嗟に口を突いた質問は、優先順位としては随分低いモノだった。
「うん。電話は鳴ってないね」
なおも視線を下げたまま、摩子さんは繊細な箸運びで冷奴の一角を口へと運ぶ。
「みちるちゃんにはまだ言ってなかったけど、一応この店にもあるんだよ。インターネットで予約できる仕組みがね」
「……摩子さん、それ、俺も初耳なんですけど」
「あれ、そうだっけ?」
凛介の抗議じみた突っ込みに、摩子さんは茶化すように口元を歪めた。
「ああでも凛くんも知らないってことは、もう二年くらい経つのか。
前に知り合いの旅行代理店が事業を少し大きくするって言い出してさ、この店を旅行サイトに掲載させて欲しいって声が掛かったんだよ。
正直、面倒だし手間も掛かりそうだったから何度か断ったんだけど――なんでだかどうしても載せたいってしつこくてね。
仕方ないから妥協案として、ややこしい手続きは代理店にぜんぶ任せて、もし予約が入ったら私個人の携帯に連絡が入るようになったって訳。
ま、小さなサイトだから滅多に連絡来ないんだけどね」
「……なるほど。なんとも摩子さんらしいお話で」
不服そうに凛介がぼやく。
前もって知らされていなかったのが、よほどショックだったらしい。
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