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「で、結局どうするんです?」
と。一足先に食事を終えた凛介が話を本筋に戻してくれた。
ありがたいことに、それはあたしが最優先で訊くべきだった事でもある。
「といっても、摩子さんの予定を変更してもらうか、お客さんにお断りの連絡をするか――俺にはそのくらいしか思いつきませんけど」
「うーん、もちろん両方とも考えてみたんだけどね。
でも二年も待たされた挙句、ご祝儀だけ渡して帰るってのはなんだか癪じゃないか。かといって、せっかくの予約をこっちの都合でお断りするのは、民宿の主人としては絶対に避けたいところなんだよね」
「まあ、気持ちはわかりますけど」
「うん、だからさ」
食い気味に凛介の言葉を遮って、悪意たっぷりの笑みを浮かべる摩子さん。
「もういっその事、今回はふたりに全部任せちゃおうかなって」
摩子さんの言葉に、あたしはあやうく麦茶をふき出しそうになった。
咳き込みながら涙の浮かんだ瞳を摩子さんに向ける。
「あはは、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。それに驚く必要のない事だし、ね」
「それは……、えっと?」
気を取り直して言葉の意味を探ってみると、摩子さんは三日月を思わせる瞳を少しばかり見開いた。
「みちるちゃんに店を任せるのは当たり前って意味だよ。
この二ヶ月で教えることはあらかた教え終わったし――なによりみちるちゃんは仕事を覚えるのが早いからね。いつまでも半人前扱いする訳にはいかないでしょ?
それにご飯は凛くんに任せておけば問題ないし、もし面倒事が起こったとしても――私も日付が変わる前には帰ってくるつもりだからさ、その時まで先延ばしにしてくれればいい。
ほら。ふたりに任せない理由の方が見当たらないだろう?」
まくしたてる様に言われて、あたしは反応に困ってしまう。
……まあ、あたしがどんな反応をしたところで摩子さんの決定が覆ることは無いと思うけれど。
「摩子さんがそれでいいのなら俺は問題ないですけど――みっちゃんは大丈夫?」
それでも、凛介は頑なにあたしの意思を問う。
まるでそれこそが最も大切だとでも言いたげに。
「ああそうだ。引き受けてくれたら土曜日のお給料は倍にするからね」
さも当然のように言われて、また少し咳き込んだ。
「……わかりました。頑張って、みます」
摩子さんは満足そうにうん、と笑う。
結局それが話を終わりを意味し、夕食終了の合図になった。
「それじゃごちそうさまでした。凛くん、食後のコーヒーを淹れてくれるかな」
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