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アメリカに住んでいると言えば聞こえはいいけど、中学生の娯楽は日本に比べて、極端に少ない。
スクールバスで家と学校を往復するだけの退屈な毎日で、14歳のあたしを生かしてきたのは、推しだった。
SNSに毎日投稿される、推しの日常。彼の笑顔も、真剣な顔も、疲れたあたしを元気にしてくれる。
明け方の投稿に即時的で「いいね」を押せるのは、時差のある海外組の特権だ。あたしの「いいね」をその瞬間に推しが見てると思うと、空も飛べる気がする。
来月は推しの誕生日だから生きよう。
推しが頑張ってきた仕事の結果は見届けよう。
そんなふうに騙し騙し、泥水みたいな毎日でなんとか、あたしは息をしてきた。
推しが好きだと言った絵。撮った写真の景色。美味しいと言ったスイーツ。いつか日本でそれを堪能するために、その日を楽しみに、がんばって心臓と肺を動かしてるのに。
推しから幸せの供給がなくなったら、あたしはどうやって生きていけばいいんだろう。
「別にいいじゃない、これからも応援してあげれば。彼の幸せを願ってあげられるのが、本当のファンじゃないの?」
ママならそう言うに決まってる。
でも、違う。
結婚しても、引退しても、「彼」は死なない。もしかしたら今より幸せになるかもしれない。でも、「推し」は死んでしまうのだ。もうあたしの、あたしだけの推しではなくなる。誰かのものになった男を、あたしは推せない。そんなの、耐えられない。
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